アンシス・ジャパンは10月5日、都内でプライベートカンファレンス「ANSYS INNOVATON FORUM 2018」を開催。基調講演として、ANSYSのDirector,Worldwide Engineering SolutionsのScott Stanton氏が登壇。「Autonomy & Electrification - Driving the Automotive Revolution(自律走行と電動化 - 実現に向けたソリューション)」と題して、自動車のメガトレンドと、そこにシミュレーションがどのように役立っていくかについての説明を行った。

自動車は近年、燃費向上(CO2削減)、安心・安全技術の向上、電気自動車、自動運転車といったように取り巻く環境が劇的に変化している。その変化を牽引しているのが、「自動運転」「電動化」「スマートコネクテッド」「アディティブマニュファクチャリング」の4つのメガトレンドである。

  • ANSYSが注目する4つのメガトレンド

    ANSYSが注目する4つのメガトレンド

こうした大変革の時代に対し、ANSYSとしては、「顧客のパートナーとなったエンジニアリングソリューションの提供が重要」とのことで、共に協力する形で、ニーズに即したシミュレーション製品などを提供したきたとする。「2015年にDelcross Technologiesを買収し、ADASやレーダーといった高周波システムの解析ソフトウェア開発に対応して以降、2016年にKPIT medini Technologies買収による安全性解析、2017年に3DSIM買収によるAdditive Manufacturingの強化、2018年には光学センサシミュレーションおよびクローズドループリアルタイムシミュレーションを手がけるOPTISを買収するなど、この数年は自動運転の実現に向けた開発環境の整備を行なってきた」とする。

  • ANSYSの2015年以降の買収案件

    ANSYSの2015年以降の買収案件。自動車の設計、製造に必要なさまざまな機能を拡充してきた

その背景には、「自律走行には何十億ものシナリオによるシミュレーションが必要であり、かつ電動化に対するイノベーションも必要となっている」という業界の動きを説明。シミュレーションの活用範囲を拡大していくことで、製品開発のライフサイクル全体に変革をもたらすことを強調した。

  • Scott Stanton氏

    自動運転車の開発には2つのアプローチがあるが、いずれもシミュレーションとAIを組み合わせた評価を行い、システムの正確性を確認する必要がある。写真に写っている人物がScott Stanton氏

こうしたトレンドを補完するものが、アディティブマニュファクチャリングでありデジタルツインとなる。いずれも世界中で取り組みが盛んになりつつあり、それに併せてANSYSでも、より多くの人に活用してもらうためのパートナーシップの拡充と、プロセス開発を行なっているとのことで、これらを活用してもらうことで、短時間での製品開発を、しかもより最適化された形での開発が可能となったとする。

  • ANSYSのデジタルツインのイメージ

    ANSYSのデジタルツインのイメージ。物理世界のデータはパートナーであるSAPやPTCからもたらされる

その例がフォルクスワーゲンと組んだ米国コロラドスプリングスの世界的な山岳自動車レース「パイクスピーク」への挑戦で、参加した電気自動車(EV)カテゴリのみならず、全カテゴリでもワールドレコードとなる7分57秒148を記録。これまで8分の壁を破ったものはほかになく、かつプロジェクトがスタートしたのが2017年10月18日、新記録を樹立したのが2018年6月24日と、1年にも満たない開発速度で、これを実現したことは、シミュレーションがさまざまなシーンで活用された良い事例になったという。

  • フォルクスワーゲンとの共同開発の事例

    フォルクスワーゲンとの共同開発の事例。パイクスピークで8分を切る記録を樹立した

なお、同社としてはシミュレーションの利用分野拡大に向け、クラウドでの活用の促進や、手軽にリアルタイムで構造解析、流体解析、熱解析、モータル解析を同時に実現する「Discovery Live」の提供などを行なってきた。かつては設計データを外部に出すことをためらってきたモノづくり産業も、最近ではクラウドの活用を進めるようになってきており、ベンチャーでは導入開始当初から、大企業でも徐々にクラウドのワークロードが四半期ごとに6割増で増加してきているとのことで、今後もクラウドでの利用が業界全体と通じて増加していく見通しだという。また、Discovery Liveについても少なくとも、今後2年先に向けたロードマップは構築済みとのことで、2019年にはマルチフィジックスのカップリングに関するアップデートなどを行なう予定だとしている。