ハーゲンダッツ ジャパンは、NVIDIAが9月13日~14日にかけて都内で開催した「GTC Japan 2018」において、「社員の仮想デスクトップ環境が飛躍的に改善! 新VDI基盤で実現した生産性の向上」と題したユーザー講演を行い、自社のVDI(Virtual Desktop Infrastructure)環境にNVIDIA GRIDを採用したことを明らかにした。
ハーゲンダッツという社名の由来
カップアイス、中でもプレミアムアイスクリームとして名高いハーゲンダッツ(Haagen-Dazs)。その名前の響きから、欧州企業というイメージを持つ人も多いが、実は1961年に米国で創業されたという歴史を持つ。そんな欧州風の名前の由来については、 「創始者のルーベン・マタス氏が、アイスクリームといえばデンマークと言って、首都のコペンハーゲンのハーゲンと、語呂合わせで響きの良いダッツをつけて決定されたと聞いている」(講演を行なったハーゲンダッツ ジャパンの情報システム部 マネージャーである竹下新一氏)とのことで、その名前そのものに意味があるわけではない。
そんなハーゲンダッツを日本で製造、販売しているのがハーゲンダッツ ジャパンであり、国内に研究開発センターや製造工場を有している。
同社がVDIの導入を決定したのは、およそ5年ほど前。当時は、既存環境のヒアリングをベースに、想定利用者数や使用するアプリケーション、拠点数などから、必要なリソースを算出し、それに見合う環境を構築した。その結果、どこのオフィスや工場であっても、各人の環境でメールなどの閲覧が可能となったほか、会社のPCを持ち帰って自宅で作業、ということもなくなり、自宅のPCで自分の環境を呼び出して利用する、といった育児や介護をしながら業務に携わる人にも優しい環境を構築することができたという。
しかし、アプリケーションの処理が遅かったり、最悪の場合、固まってしまったり、といったクレームが社内から噴出し、決して、ばら色の仮想デスクトップ環境が社員全員に提供できたというわけではなかったという。「VDIをシステムインテグレーターに提案してもらった際に、こういう使い方をしているという形で、検討してもらって、こういうリソースで行こう、と決めたが、いざ、使ってみると、思惑通りにいかなかった」と竹下氏は当時を振り返る。
リソースの詳細分析を改めて実施
結果として、改めて使い方についての分析のし直しを決定。その結果、時間あたりで、メモリやCPUの使用率を見ると、常にピーク状態であるということが判明。例えば、インターネットの遅延は、平均で0.8msだが、ピーク時にはその300倍超となる297.2msと、負荷が上昇したタイミングでのパフォーマンス低下が激しいことが浮き彫りになった。
この分析結果を踏まえ、新たなVDIシステムのCPU、メモリ、ディスク、ネットワークのシステムリソースの改善を検討。そのめどをつけることができた。「しかし、実際にその環境で操作はしていないので、分析結果どおりの効果が発揮できるかは不安だった。せっかく、大きな投資をして、基盤が変わったのに、ユーザーの体感として変わっていない、というのが、改善した後にでたらどうしようと思っていた」と竹下氏は不安があったとするが、その不安はまもなく的中した。
塩キャラメルが動かない
問題が表面化したのは、2018年の1月に期間限定発売を行ったクランチークランチ「塩キャラメルマカデミア」の発売の時期であった。
同社はWeb上にマーケティングの一環として、動画を公開したのだが、そのマーケティング担当者が、同氏の座席まで走ってきて、「今日、アップロードした動画が動かない」と、報告してきたのだ。同氏も確認してみたところ、確かに動いていないことを確認。VDI環境を構築したネットブレインズに相談したところ、「VDI上のブラウザの画面サイズを小さくすることで、何とか見ることができる」という解決策を得たという。
「分析の結果で得たリソースの改善案で、この問題が発生しなくなるのか、というネットブレインズとの相談の結果は、リソース的には問題がないというものであった」ということであったが、そこは企業の情報システム部門。社内のユーザーみんなに、意識することなくPCを使ってもらいたい、という想いから、より安心してVDIが使える、ということで、NVIDIA GRIDの採用提案を受け入れたとする。
すべての作業をVDIでストレスなく実行
こうしてGRIDベースのVDIへと切り替わったわけだが、現在、同社の社員全員が、すべての業務(オフィススイートやWebブラウザ、業務用アプリなど)をVDI上で行なっている。
「VDIを導入してからの最大の悩みの種だったのが、初回ログイン」(同氏)とのことで、VDI環境であるため、Windows OSをシャットダウンさせる必要がないのだが、週一回は強制ログオフを実行するという社内のルールがあるため、週頭の月曜日は、ログインが多発し、ひどいときは10~15分ほどログインできない状態が続くこともあったという(平均でも2分38秒)。それがGRIDベースのVDIでは平均50秒と2分近くの改善が見られたという。
「まだ改善の余地があるアプリなどもあるほか、オフィススイート系は数値的にはそれほど差がないように見えるが、実際の体感速度としては早くなったと感じている」(同)とするほか、「やっとましになったと言ってくれる人もいる。結果的に、システム担当者への問い合わせも減らすことができた」とのことで、ヘルプ対応の負担も大きく減ったとする。
迫るWindows 7 延長サポートの終了時期
現在、同社はBCPの一環として、旧VDIシステムの利活用の意味も含めた形で、大阪にシステムを設置しなおし、有事の際には、そちらに切り替える、という仕組みの構築を進めており、11月の最終テストを経て、これで大丈夫、という状態に持って行きたいとしている。
また、同社の現状の仮想化環境はWindows 7であるが、先行する形で、情報システム部内ではWindows 10を導入。業務利用における課題の洗い出しを進めており、順次、ユーザー部署が独自に導入しているシステムの検証などに移行し、2019年3月には、一斉にWindows 10環境への入れ替えを行ないたいとしている。
実際、Windows 7の延長サポートは2020年1月14日に終了する予定で、以降はセキュリティ更新プログラムや有償サポートを含むすべてのサポートが受けられなくなる。企業としては、2019年度の予算で移行に向けて取り組む、とするところも少なくはないが、4月から新年度の場合、サポート終了までに1年を切った状態となる。
しかもWindows 10になると、Windows 7ではできたWindows Aero機能の無効化ができないため、グラフィックリソースの使用率が約30%ほど増加する。しかも、アプリケーションでもグラフィックリソースを消費するほか、GPUがないサーバCPUの場合、CPUで処理をエミュレートするため、CPUへの負荷も高まることとなる。すでにGRIDでは、そうした処理をGPU側で行なうことで、CPUの負荷を下げることが可能となっており、Windows 10のVDI環境でも快適に利用することが可能になっているという。
なお、竹下氏は、GRIDベースのVDIを活用する企業側の担当者として見た際の評価として、「情報システム部としては、管理がしやすくなった。これまではPCが壊れれば、メールの設定などを1つひとつ入れ替えて進めていたし、大規模なPCの入れ替え作業になれば、土日を使って何十人という規模で作業を行なう必要があった。しかし、VDIであれば、マスターコピーを作って、一斉配信を行なえば、それで完了できる。予定しているWindows 10への移行も土日の間に一斉配信をして、終わらせられる」としており、社員がストレスなく活用できるVDI環境は、企業の情報システムを管理する部署にとっても、負担を軽減できるものになるとしていた。