NVIDIAは、9月13日~14日にかけて都内で開催した「GTC Japan 2018」の「自動運転車からサポート・クラウドまでのトータルシステム」と題したセッションにて、なぜNVIDIAがGPUを軸に、自動運転の実現に必要となるあらゆるソリューションを展開していることの紹介を行なった。

単なる半導体会社から変貌を遂げるNVIDIA

CUDAの登場によってGPUコンピューティングは、GPUを単に画像を描画するためのものから、さまざまな分野における演算処理を実現させるためのものへと進化するに至った。この流れに併せて、現在のNVIDIAは、同一アーキテクチャをコア数などの違いにより用途別に分けて、Tesla、Quadro、GeForceといったようにブランド展開をしている。その中の1つ、自動運転車載AIプロセッサ「Xavier(エグゼビア)」は、モバイルGPU「Tegra」の流れを汲む製品という位置づけとなっている。しかし、エヌビディアの技術顧問でGPUエバンジェリストの馬路徹氏は、自社をチップベンダではないと評する。「半導体チップだけだと、その上に載るソフトウェアが正しいのかが分からない。例えばスーパーコンピュータ『DGXシリーズ』や自動運転プラットフォーム向けのシミュレーションやソフトウェアなども、自社で開発し、動作なども見ている」と、単にチップだけを作って終わりではないことを強調する。

  • NVIDIAの1アーキテクチャ戦略

    1つのアーキテクチャであらゆる分野をサポートするのがNVIDIAの戦略 (出典:GTC Japan 2018におけるNVIDIAの講演資料より抜粋)

実際、GTC Japan 2018の基調講演に登壇したNVIDIA創業者で社長兼CEOのジェンスン・ファン(Jensen Huang)氏も、ここ数年、自社のことをGPUベンダではなく、AIカンパニーといった表現などで表現してきたが、GTC Japan 2018でも「ソフトウェアカンパニー」という言葉で自社を表現しており、カスタマが実現したいソリューションを提供するためには、ハードをベースとして、その上で動くソフトも提供する重要性を強調していた。

といっても、ハードの上で動くソフトまで提供するとなれば、自社ブランドで当該のソリューションを提供すればよいのでは、ということとなる。しかし、NVIDIAオートモーティブシニアディレクターであるDanny Shapiro氏によれば、「確かに今のNVIDIAは、ハードウェア、ソフトウェア、アルゴリズム、シミュレータ、デプロイなど幅広く提供しているが、これはカスタマやアプリケーションを作るために提供するもの。我々はアプリを作らない。提供するものはリファレンスとして活用してもらう。我々が用意するそれら検証済みのツールを使って、(自動運転の)レベル2~5のそれぞれのレベルにマッチしたアプリをカスタマであるOEM(自動車メーカー)やティア1などに作ってもらうことを目指している。単に製品を売るだけでなく、エンジニアリングとしてパートナー連携をして、協業してソリューションを作り上げていくことを目指している」と、自社の取り組みの背景にある意図を説明する。

自動運転を実現するXAVIER

これからの同社の自動運転ビジネスを支える「XAVIER」だが、TSMCの12nm FFNプロセスで製造されており、さまざまな機能安全を実現する機能が搭載されている。また、微細プロセスであるため、放射線によるエラーが発生する可能性も必然的に高くなるため、パッケージングにも配慮した作りとなっている。

  • XAVIERの概要

    XAVIERの概要 (出典:GTC Japan 2018におけるNVIDIAの講演資料より抜粋)

すでに370のパートナーがNVIDIA DRIVEを活用して開発を進めているというが、その多くが従来のDRIVE PX2を用いており、今後、徐々にDRIVE PX XAVIERに移行していく予定だという。両者ともに性能としては、20TOPS DLだが、DRICE PX XAVIERはサイズおよび消費電力が格段に小型、低消費電力化されている。また、レベル5の実現に向けては、DRIVE AGX PEGASUSが提供され、その演算性能は320TOPSとなっている。

  • DRIVE PX 2とDRIVE PX XAVIERの比較

    DRIVE PX 2とDRIVE PX XAVIERの比較 (出典:GTC Japan 2018におけるNVIDIAの講演資料より抜粋)

  • DRIVE AGX PEGASUSの概要

    DRIVE AGX PEGASUSの概要 (出典:GTC Japan 2018におけるNVIDIAの講演資料より抜粋)

サーバから車両まで幅広く自動運転開発を支援

自動運転の開発の流れとしては、データの収集、学習、検証、シミュレーションテスト、実際のECUで検証、地図との合成といったさまざまな段階が存在するが、NVIDIAはすべての工程を現在、サポートが可能となっている。

  • 自動運転の開発工程

    自動運転の実現に向けた開発工程のすべてをサポート (出典:GTC Japan 2018におけるNVIDIAの講演資料より抜粋)

中でも「プログラミングの性能を決めるのはデータの精度と質」(馬路氏)とのことで、インドに拠点を設立し、1000名を超す人員で、データの収集、加工を行なったり、ラベル付けも1ヶ月あたり1500名体制で100万枚処理するなど、こだわりを持った取り組みを進めているとする。

こうした作業を経て、自動運転車には外部環境を認識したりするために少なくとも10種類のディープニューラルネットが搭載される。これらがさまざまな環境において正常に動作するかどうかは、実走行データとシミュレーションで検証が行なわれるが、実際に走れる時間や距離、環境には限りがあり、シミュレーションの活用が重要となる。シミュレーションを大規模に実行するためには、スパコンを活用するのが時間の短縮に向いており、同一アーキテクチャで、規模だけが異なるGPUであれば、そこはシームレスにやりとりすることができるようになる。実際に同社では、PEGASUSを活用して、ECUとスパコンが通信できるシステムを構築、シミュレーションを実行する環境を構築しているという。

  • データセンターと自動運転車のデータのやりとり

    データセンター(スパコン)と自動運転車のやり取りのイメージ (出典:GTC Japan 2018におけるNVIDIAの講演資料より抜粋)

  • 同一アーキテクチャでHILとSILを実行

    同一アーキテクチャでHILとSILを実行することで、精度の向上をはかれるようになる (出典:GTC Japan 2018におけるNVIDIAの講演資料より抜粋)

次世代は2チップ構成でPEGASUS級の性能を実現

今回のGTC Japan 2018ではNVIDIA DRIVEのロードマップは示されなかったが、先行して開催されたGTC 2018では、PEGASUSの次として、Orinという開発コード名が提示されている。

これについてShapiro氏は、「PEGASUSはTuringが2チップとXAVIERが2チップ構成で320TOPSの性能を実現しているが、これを2チップのOrinで同程度の性能を実現する。OrinはXAVIERよりも若干大きなチップサイズとなる見通しだが、その程度であるので、当然、消費電力も相当落としこめると思っている」と、OrinはPEGASUSのようなサーバと接続して使う、というよりも、XAVIERのように実車両でも使える可能性を示唆した。

  • DRIVE AGX PEGUSUSとDRIVE PX XAVIER

    GTC Japan 2018会場に展示されていたDRIVE AGX PEGASUS(左)とDRIVE PX XAVIER(右)

とはいえ、XAVIERが12nmプロセスを用いて製造されており、現状のTSMCが提供する最新世代は7nmとなる。次世代として5nmの提供も予定しているとするが、微細化が進むに進んだプロセスを1-2世代進化させるだけで、同氏が語るような低消費電力化ができるかは不透明だ。ただし、Jensen Huang氏も「プロセス以上にアーキテクチャが重要となる」という発言をGTC Japan 2018の記者会見にて行なっており、同社内部では、低消費電力化の見通しが立っている可能性もある。

OEMメーカーがレベル3以上の自動運転車の提供を目指し、しのぎを削る現在。 自動運転を実現する、という目標に向けて、さまざまなレイヤでソリューションを提供する同社の存在は今後、さらに高まりそうである。