近年、IoTの普及とAI(人工知能)技術の発達とともに、データに対する価値は高まる一方となっている。そうした状況を、IBMのバージニア・ロメッティCEOやアリババのジャック・マー会長など、多くの人物が、データが20世紀における石油のような、必要不可欠なものとなると評してきた。
日々増え続けていくデータ。2018年は年間で推定2ZBのデータが生み出されると見積もられているが、2022年にはその5倍以上に増加するとの見通しもあり、留まるところを知らない。しかし、増え続けるデータを、単にストレージに保存しておくだけでは、一向に価値は生まれず、適切に処理をし、分析・解析を施し、そこから知見を発見する必要がある。
ただし、急激に増え続けるデータの処理に、旧来型のノイマン型コンピュータでは追いつかない可能性も示唆されており、新たなコンピュータアーキテクチャとして、量子コンピュータやニューロモーフィックコンピュータなどの活用に向けた研究開発なども進められている。「そうした大量のデータの処理を可能にする処理速度を実現するチップの製造、データの生成、保存、処理といった一連のハードウェアが登場できたときが、本当の意味でのAIの時代となる」と語るのは、半導体製造装置大手Applied Materials(AMAT)の日本法人アプライド マテリアルズ ジャパンの中尾均 代表取締役社長だ。
AIの進化がもたらす半導体のルネサンス
具体的には、「AIの時代では、多量のデータを一度に処理することで、人間が持ち得ない予測が可能となる。そうなると、データそのものに価値がでてくる。AIでデータを処理する要素として、多くのメモリが必要となる。データを記録する際はもとより、GPUに代表されるような並列処理は、それを実現できるだけのエクストリーム・ハイロジックとメモリバンド幅が必要となる」(同)とするほか、「AIの処理では、CPUのような汎用的な処理を行なうロジックよりも、ある処理に特化したアクセラレータが求められることとなる。特定用途型のチップを活用して、分析を行い、予測するということが並列処理の進化により可能となった」と表現。これまで、コンピュータには、(CPUなどの演算処理を行なう)ASICがあり、DRAMやSRAMがあり、そのやりとりで演算が行なわれてきたが、AIを活用するには、用途に応じたアプリケーションと、それをサポートするシステム、そしてそれを可能にするさまざまなレイヤの半導体チップの存在が必要となり、画一的なコンピューティング処理の概念から解き放たれることとなる。さまざまな半導体チップの活用が進むこのような動きについて、同氏は「ハードウェアのルネサンス」と表現する。
ムーアの法則の終焉以降の半導体の世界
AI技術の発展によりハードウェアのルネサンスが訪れる一方で、プロセスの微細化は物理的な限界に近づき、微細化によって、トランジスタ数を増加させ、コンピューティング性能を向上させるという、いわゆるムーアの法則は終焉を迎えようとしている。
実際に、Intelは10nmプロセスの立ち上げに苦心しているほか、GLOBALFOUNDRIES(GF)は7nmプロセス(GFやSamsung、TSMCが語る7nmとIntelの10nmは必ずしも同一のプロセスノードではないことに注意する必要がある)の開発を中止するなど、先端プロセスを提供できるファウンドリの数が限られてきていることは事実だ。
そうした現状を踏まえ、中尾氏は「ムーアの法則の終焉以降のチャレンジは、AMATにとってのビジネスチャンス」と語り、これが実現できるかどうかが、今後の半導体産業を含めた世の中の分水嶺になってくるとの見方を示す。
確かに、各国がしのぎを削って研究開発を進めている次世代のスーパーコンピュータが目指している性能目標であるExaFlopsの実現には、性能の向上に加えて、電力の低減が必須となっている。また、先端プロセスでの製造にはマスクの製造なども含めて、数十億円規模のコストがかかっており、今後、仮に先端プロセスが7nmから5nm、4nm、3nmと世代が進んでいっても、現実的なコスト回収が可能な範疇に収められる必要があり、製造装置メーカーには、そうしたニーズを実現できる装置の提供が求められることとなる。
すでにそうした動きを見せているのがNANDだ。NANDはプロセスの微細化よりも、いかに積層するか、いわゆる3D NAND化することで、記録容量の増加が試みられるようになっている。とはいえ、3D NAND化により耐性の向上や信頼性の向上にもつながったほか、データを移動させる距離も少なくなるため、電力効率も2D NANDの時代に比べて向上しており、性能的な進化は止まっていない。
こうした動きは、ロジックの世界にも広がりを見せている。2.5Dパッケージングなどに代表されるパッケージング技術が良い例で、サブストレート上にGPUやCPUとメモリを一緒に載せ、1パッケージ化することで、ビット当たりの電力の削減や、データ転送にかかる帯域幅の増加などが可能となっている。
AMATとしてもパッケージング技術を重視しており、シンガポールにR&Dチームを設置。世界中の顧客と協業しているとのことで、「AIの時代に必要なものは、ビッグデータをいかに扱えるようになるかで、それが人類の進化につながる。その実現のためには、来るべきエコシステムの中で、会社同士をいかにつなぎあわせて、早く動いていくかが重要」(同)と、エコシステムとしてのパートナーシップの重要性を強調。今後は、さらなる協業なども進めていくほか、これまでよりも多い年間20億ドルの研究開発投資を行なうなど、積極的な技術開発を進めていくことで、半導体の進化を継続させていきたいとしていた。