イリノイ大学シカゴ校(UIC)の研究チームは、固体電解質を用いたリチウムイオン電池を3Dプリンティング技術を用いて試作することに成功したと発表した。これまでリチウムイオン電池の電極部を3Dプリンタで作製した事例はあったが、安定かつフレキシブルな固体電解質を作製したのは今回がはじめてであるという。研究論文は「Advanced Materials」に掲載された。
リチウムイオン電池の量産プロセスでは、電極と電解質はそれぞれ分離した工程で作られ、その後いっしょにして電池容器に封入する。電池のサイズを変更したり、使用するデバイスに合わせて電池の仕様を個別に修正したりするには、製造装置の設定をいちいちリセットしなければならないという問題があった。
3Dプリンタを用いてリチウムイオン電池のすべての部材を一度に作製できれば、こうしたカスタマイズや仕様修正が素早く低コストにできるようになるといえる。しかし、これまで報告されてきた3Dプリンタによるリチウムイオン電池では、3Dプリントで作製できるのは電極だけで、電解質については後から追加したプロセスによって作製されていた。
従来の固体電解質の製造では、製造工程でさまざまなコーティング剤や溶媒が使われ、次の工程に行く前にそれらを蒸発させておく必要がある。3Dプリンタで成形した電池の上にさらに固体電解質を印刷する場合、印刷後に溶媒などが蒸発すると電解質が収縮して電極から剥がれてしまうからである。こうした現象は電池の短絡など事故の原因にもなる。電池容器や電極に対する固体電解質の接触性を良くするにはコーティング剤が使われるが、コーティング剤を3Dプリンタ電池に取り込むのは極めて難しいとされる。
こうした問題を解決するため、研究チームは昇温中に動作する特殊な3Dプリンタの設計を行った。通常の3Dプリンタは室温条件で材料の押し出しを行うが、今回の3Dプリンタでは120℃程度の温度条件で押し出すように作られている。
固体電解質の印刷用のインクには、酸化チタン粒子を含んだ高分子を用いる。このインクを電池に直接堆積させると、フレキシブルかつ機能性のある固体電解質が得られるという。論文によると、インクのイオン伝導度は、0.78×10-3S/cmとなっている。
高温で印刷することによって、次の工程での蒸発による電解質収縮を防ぐことができる。このため、電解質の作製効率が劇的に向上すると研究チームは説明している。また、従来の方法で作製された固体電解質を用いた電池に比べて充放電容量が高く、性能もよいとしている。