バイオメディカル領域に挑むヤマハ発動機
ヤマハ発動機は8月31日、治療用抗体の作製などを手がけるバイオベンチャー「イーベック」へ約5億円の出資を行ない、自社の持分法適用関連会社とし、バイオメディカル領域における事業拡大を目指すことを発表した。
今回の出資は、ヤマハ発動機が2016年から進めている3か年の中期経営改革の成長戦力の1つ「ソリューションビジネスへの挑戦」の一環として実施されるもの。2017年に同社は、半導体製造の後工程で用いられるチップマウンター(表面実装機)などで培った高速・高精度なモータ制御技術と画像認識技術を応用展開し、細胞の塊を、サイズをそろえて、マイクロプレート(微小な試験管の集合体)に整列させ、配置する細胞塊ハンドリング装置「CELL HANDLER(YCH)」の販売を開始したが、現在、細胞を1つひとつのレベルでハンドリングすることを目指した技術開発を進めており、この技術開発を加速させるために、イーベックとのパートナーシップが重要になると判断し、今回の出資に至ったという。
質の高い抗体作製ノウハウとロボット技術を融合
一方のイーベックは、2003年に設立されたバイオベンチャーとして老舗に位置づけられる企業。抗体はウイルスなどの異物が体内に入った際に、産生され、そうした異物に攻撃したり、結合して生体内から除去するといった生体物質。ヒトに用いる場合は、マウス由来で作られるほか、ヒト由来で作られるものなど、さまざまな方法があるが、同社はヒト抹消血由来の完全ヒト抗体の中でも、95%ほど存在する「自己反応および多重反応抗体を持つ抗体」を排除し、そうした反応などを示さない高品質な5%を、抗体性能が高いヒト抹消血由来ヒト抗体として作製する技術を有している。
そのため、治療薬抗体として用いた場合、高い効能を得たり、高い安全性を実現できることが特徴となっているほか、そうした高品質を背景に、2017年からは検査、診断用抗体の作製と、受託作製事業も開始するなど、事業の拡大を図ってきた。
こうした抗体作製において、従来以上の早さで、高品質な抗体を得るために必要となったのが、YCHの技術だという。具体的には、現在の抗体作製技術だと、人の手を介するため、強みであるフローサイトメトリーやセルマイクロアレイといった独自の濃縮法を活用しても、抗体を提供できるようになるまで約40日かかっていたり、作業者の経験値の違いで歩留まりが変わる、といった課題があったが、これが機械化されることで、品質の均一化と作製の高速化を図ることができるようになり、5日ほどで提供できるようになる見通しだとしており、「これにより、患者が疾病を発症し、治療の初期段階などで高品質な抗体を提供できるようになる」と、イーベックとしての事業拡大につながることが今回のヤマハ発動機との資本提携に結びついたとする。
2020年ころをめどにIPOを目指すイーベック
イーベックは、今回得た増資資金を活用して、血液ライブラリの充実を図っていく予定で、保有する抗体リストを拡充することで、さまざまな疾病に対応できる体制の構築を進めていくとする。
また、大学や研究機関との共同研究資金としても活用していくとしており、さらなるシーズの拡充も図っていくとする。すでにハブ毒の抗体や、がん抗体の作製について、複数の大学との共同研究なども開始しているとのことで、機械化による抗体作製速度を向上させることで、開発効率を高め、さらなる事業の拡大を進めていくとする。
そうした取り組みを通じて感染症やがん治療の分野などを中心に存在感を高めていったその先の目標としてイーベックでは、2020年ころをめどに、ヤマハ発動機との関係を維持・強化を図りつつも、IPOを目指すとしており、今回のヤマハ発動機との戦略的パートナーシップを契機に事業を第2ステージへと引き上げていくとしている。