最速タイムから暗転、室屋選手は途中失格で8位
8月26日、ロシアのカザンで開催されたレッドブルエアレース第5戦本戦で、室屋義秀選手は2回戦のラウンド・オブ8で失格し、8位となった。年間ランキング総合順位は5位と変わらないが首位との差は26ポイントから33ポイントに開き、年間チャンピオンの可能性はさらに厳しいものになった。
エアレース後半戦へ、背水の陣のカザン
昨年のチャンピオンに続く2連覇を目標とした室屋選手にとって、全8戦からなるシーズンの前半4戦は苦い展開だった。初戦アブダビ、第2戦カンヌでは決勝のファイナル4へ進出したものの、第3戦は地元日本の千葉で、宙返り時の荷重制限違反でまさかの初戦敗退。第4戦ブダペストでもまったく同じ結果になり、順位を5位へ下げてしまった。
残り4戦で逆転するには室屋選手が上位選手を破るだけでなく、上位選手が低い順位で敗退する大会もなければならない。シーズン後半に入るカザンは、まさに背水の陣だ。
「接戦の高速コース」、上位勢は順当に勝ち抜き
1回戦のラウンド・オブ14は、14名の選手が7組に別れて戦う。室屋選手は14名中一番最初に飛行して記録は52.774秒、対戦相手のニコラス・イワノフ選手(フランス)の53.809秒を1秒以上の大差で破り、順調に歩を進めた。
上位選手が低い順位で敗退するには、このラウンド・オブ14で上位同士の「潰し合い」をしてくれることが望ましい。今回は総合1位のマット・ホール選手(オーストラリア)と4位のミカ・ブラジョー選手(フランス)が直接対決となり、ホール選手が勝ち残った。とはいえ2位のマイケル・グーリアン選手(アメリカ)と3位のマルティン・ソンカ選手(チェコ)も勝ち残っており、室屋選手より上位の選手で敗退したのはブラジョー選手のみ。ここでは大きく差を詰めることはできなかった。
「エンジン回転数オーバー」で2回戦敗退
続くラウンド・オブ8でも最初の順で飛行した室屋選手は、なんとラウンド・オフ14より1秒以上速い51.643秒でゴール。対戦相手のカービー・チャンブリス選手(アメリカ)も52.452秒と良いタイムを出したが、室屋選手に及ばなかった。しかし着陸した室屋選手に、まさかの「エンジン回転数オーバー」が告げられる。なんと、3大会連続の失格による敗退が決まってしまった。
レッドブルエアレースの規定で、エンジンの回転数が規定の2950RPMを超えると失格になる。エアレース機にはエンジン回転数を一定に保ちながら最大の推進力を得る自動調整機構が備わっており、レース中に回転数を操作する必要はないのだが、室屋選手の機体は宙返り後の約2秒間、規定回転数をオーバーしていたのだ。なお、この51.643秒の記録は本戦の全選手の中で最速。室屋選手の操縦はパーフェクトだった。
前の2大会は操縦による失格だったが、今回は機体トラブルによる失格。室屋選手は「今まで一度も経験したことのないことなので、チームで研究したい」と説明することしかできなかった。
ソンカ選手2連勝、上位3選手と室屋選手に大差
ファイナル4に進出したチャンブリス、グーリアン、フアン・ベラルデ(スペイン)、ソンカの4選手はいずれもペナルティなしの奮闘を見せたが、優勝したのは52.123秒を記録したソンカ選手で、前回ブダペスト大会に続いて2連勝を飾った。2位グーリアン選手、3位チャンブリスの順となったが、4位のベラルデ選手も52.686秒と、わずか0.563秒差の大接戦だった。
年間ランキングを見ると、首位だったホール選手はラウンド・オブ8敗退、入れ替わりにグーリアン選手が首位に立った。今回優勝したソンカ選手はホール選手と同点2位になり3選手の点差はわずか6ポイント。ほぼ横一線と言っても良いだろう。
室屋選手の順位は5位で変わらないが、首位との差は33ポイントに開いてしまった。1大会で優勝した場合でも15ポイントのレッドブルエアレースでは、これから上位3人が揃って不調にならなければ室屋選手が追い付くことは不可能だ。
改良で性能アップした機体の能力をギリギリまで引き出そうとして、2大会連続で「オーバーG」という結果に苦しんだ室屋選手。自らの操縦は完璧に復活していただけに、機体側に原因のある失格は辛いだろう。しかし、昨年最後までチャンピオンを争ったソンカ選手は今年、2回も回転数オーバーに見舞われたが、それを乗り越えて快進撃を続けている。室屋選手にも、苦難を乗り越えてチャレンジを続ける以外の道はない。次回のレッドブルエアレース第6戦は、オーストリアのウィーナー・ノイシュタットで9月15日・16日に開催だ。