東京工業大学は、藻類で"オイル生産"と"細胞増殖"を両立させることにより、オイル生産性を野生株(親株)と比べ56倍に向上させた藻類株の育種に成功したと発表した。

同成果は、同大科学技術創成研究院化学生命科学研究所の福田智 大学院生(研究当時)、平澤英里 大学院生(研究当時)、今村壮輔准教授らの研究グループによるもの。詳細は、英科学雑誌「Scientific Reports」に掲載された。

国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)には、クリーンで持続可能なエネルギーの利用の拡大、地球温暖化への具体的なアクションなどが盛り込まれている。そうした中、微細藻類によるオイル生産は、SDGsを達成するための重要な技術と考えられているが、微細藻類がオイルを生産する条件には、栄養の欠乏といった、細胞の増殖には適さないものが含まれることが問題視されてきた。そのため"オイル生産"と"細胞増殖"を同時に実現することは、藻類バイオ燃料生産実現において解決すべき課題と位置づけられてきた。

  • オイル生産と細胞増殖の関係

    オイル生産と細胞増殖の関係。オイル生産と細胞増殖は両立できないとされてきたが、同研究では、これを実現する藻類株の育種に成功したという。(出所:東京工業大学Webサイト)

まず、同グループでは、藻類オイルが蓄積する条件における遺伝子の発現に注目した。各種条件で共通して発現が上昇した2つの遺伝子GPAT1とGPAT2を見出し、これらを単細胞紅藻シゾン細胞内で人為的に過剰発現させ、オイル蓄積量への変化を観察した。

  • 単細胞紅藻シゾンの細胞と実験室における培養の様子

    単細胞紅藻シゾンの細胞と実験室における培養の様子(出所:東京工業大学Webサイト)

その結果、GPAT1過剰発現株において、オイル非蓄積条件である栄養充足条件下にもかかわらず、オイルの高蓄積を確認したとする。

  • GPAT1過剰発現株でのオイル蓄積

    GPAT1過剰発現株でのオイル蓄積の様子。オイルを特異的に認識する色素で染色している。緑色のドット上のシグナルが藻類内で蓄積したオイルを示す。赤色は葉緑体による自家蛍光。(出所:東京工業大学Webサイト)

また、このGPAT1過剰発現株の増殖スピードは親株と同じであることも確認され、これにより、GPAT1過剰発現株は"オイル生産"と"細胞増殖"が両立する株であると考えることができ、オイル生産性は最大で従来の56倍に増加していたという。

  • GPAT1過剰発現株のオイル生産性を親株と比較した結果

    GPAT1過剰発現株のオイル生産性を親株と比較した結果。GPAT1過剰発現株には親株の56倍のオイル生産性があることが確認された。(出所:東京工業大学Webサイト)

今回、GPAT1過剰発現株において"オイル生産"と"細胞増殖"の両立が可能であることが観察により明らかとなったが、研究グループは今後、そのメカニズムを詳細に解明することによるさらなるオイル生産性の向上が期待されるとしている。