東京医科歯科大学(TMDU)は8月17日、膵内分泌腫瘍の肝転移の原因が、PAX6を含む膵β細胞遺伝子群の抑制によることをつきとめたと発表した。
同大大学院医歯学総合研究科肝胆膵外科学分野の田邉稔 教授と工藤篤 講師の研究グループと、同大人体病理学分野、分子腫瘍医学分野、放射線診断学分野の共同研究によるもの。詳細は、国際科学誌「Annals of Surgery」に掲載された。
膵内分泌腫瘍は10万人に約3人が発症する希少疾患として知られているものの、本邦の剖検例を対象にした報告では国民の10人に1人が罹患している可能性もあると指摘されている。この腫瘍は肝転移の有無で生命予後が決まるが、肝移転に関するバイオマーカーは解明されていない。
これを受け研究グループは、同時性肝転移を有する同疾患の特徴を明らかにするため、網羅的遺伝子解析とインフォマティクスの手法を用いて原因遺伝子の候補を抽出し、それが肝移転においてどのような役割を果たすのか検討した。
インフォマティクスを用いた網羅的遺伝子解析では、膵原発巣の凍結切片からmRNAを抽出し、cDNAマイクロアレイで同時性肝転移を起こす腫瘍と手術時点で肝転移を起こしていない腫瘍を比較した。すると、発現が顕著に変化した遺伝子のうち、膵β細胞遺伝子群の発現が顕著に低下していることが確認されたという。このとき、膵β細胞遺伝子群の中で発現低下が最も顕著だったのはPAX6遺伝子であった。
次に、先ほど遺伝子解析を行った20例と、別の60例を両方用意し、PAX6のタンパク発現を免疫染色で解析した。この結果、PAX6発現が低下した膵腫瘍では異時性肝移転が起こり、生命予後は不良であることが分かった。具体的な5年無肝転移生存率は、PAX6発現群が95%、発現低下群が66%であり、5年生存率はそれぞれ100%、87%であった。
多変量解析では、これまで当該腫瘍の潜在的悪性度を示すとされてきた腫瘍の大きさ、Ki67指数、分化度を抑えてPAX6が唯一の危険因子として同定されたという。
同研究グループは今回の結果について、最新のWHO分類で用いられる指標より鋭敏に生命予後を予測できるものとしており、同疾患の診断や治療に役立てていくとしている。