紀元前にまで遡るギリシャ・ローマ時代の文化は政治・哲学、文学のみならず世界最古のアナログコンピュータとも評される"アンティキティラ島の機械"のような精巧な機器まで、想像以上の進歩を垣間見ることができる。14世紀のイタリアにはじまるルネサンスは、時間を隔てたギリシャ・ローマ時代の文化をお手本にその後の西欧社会の発展へと繋がっていったことはよく知られている。

短期間に近代化を遂げた日本もその後に数々の発明や技術を生み出しているが、独立行政法人国立科学博物館は文化として次世代に継承していくために重要な意義を持つ発明や開発品の実物資料を毎年、重要科学技術史資料として登録している。公式ページには年ごとのリストと選定理由、所有者、写真もPDFで閲覧できる。2008年からはじまった登録制度だが、新たに2018年度の登録が加えられており稼働状態で保管されているものもある。アンティキティラの歯車とは大きく異なるところだ。

  • 日本における最古の交換機形式を残した磁石式電話交換機/同社資料より

    (日本における最古の交換機形式を残した磁石式電話交換機/同社資料より)

NTT(日本電信電話)からはNTT技術史料館所蔵(東京都武蔵野市)の日本における最古の交換機形式を残した磁石式電話交換機。OB運営サポーターが中心となって稼働させた磁石式手動交換機は、創業当初の単式。その後複数の交換機に並列接続、局内の電話接続であれば交換手は1回の操作で接続できる複式へと進化する。間に入る当時の電話交換手の労力は想像を絶するものがある。OBたちによる復元の様子やその仕組みは、公式ページにも掲載されている。

  • 国産初のリレー式商用計算機FACOM128B

    FACOM128B

現在も富士通の池田記念室(静岡県沼津市)で稼働可能な状態で保存されている国産初のリレー式商用計算機「FACOM128」(登録されたのは後期モデル「FACOM128B」)は、戦後初の国産旅客機YS-11やカメラレンズの設計に活用されるなど高度成長期の科学技術発展に貢献。富士通では技術承継のためにリレー式計算機を稼働させるプロジェクトを2007年から開始しており、特設サイトにはその様子も掲載してある。1940年代にコンピューターの国産化を強く推し進めた同社の技術者池田敏雄氏が、当時主流の真空管式ではなく電話交換機にも用いられていたリレーを使ったFACOM100の開発に成功している。知識や技術が異なるOBメンバーと現役メンバーたちが演算部にリレー約5,000個を用いたFACOM稼働実現へと協力している。

ほかにも、医療機器や顕微鏡、腕時計やテープレコーダーと時代を支えた技術やそれを構築していった日本の技術の歴史が数多く掲載されている。2018年度登録の「重要科学技術史資料(未来技術遺産)」(平成30年8月21日現在)は以下の通り。

2018年度登録 「重要科学技術史資料(未来技術遺産)」
登録番号 名称 登録区分 所在地 製作年 詳細
第00241号 FACOM128Bおよび関連資料― 日本のコンピュータ黎明期を牽引したリレー式計算機 ― 第一種 静岡県沼津市 1959 PDF
第00242号 ボトル自販機 V-63― 広く日本国内に普及した飲料用自販機 ― 第一種 東京都港区 1962~1969頃 PDF
第00243号 FinePix4700Z― 世界初のハニカム構造CCD搭載デジカメ ― 第一種 東京都港区 2000 PDF
第00244号 ヘリカルスキャン試行実験天板― ヘリカルスキャン方式CTの実現に道を開いた実験器具 ― 第二種 愛知県豊明市 1988 PDF
第00245号 小型オープンリール・テープレコーダ RQ-303「マイソニック」― テープレコーダ市場を大きく拡大した1万円テレコ ― 第一種 大阪府門真市 1963 PDF
第00246号 アイソレートループ方式オープンリール・テープデッキ RS-1500U― ユニークなテープパス系とDD大径キャプスタンを装備した高級テープデッキ ― 第一種 大阪府門真市 1976 PDF
第00247号 最高級写真顕微鏡 ニューバノックスAHBS― 世界初のAFを含む自動化を実現した画期的顕微鏡システム ― 第一種 東京都八王子市 1983 PDF
第00248号 CF方式光学系研究用生物顕微鏡 バイオフォト― 世界初のCF方式光学系による顕微鏡性能の飛躍的向上 ― 第一種 埼玉県熊谷市 1876 PDF
第00249号 油圧ショベルUH03― 操作性と動作速度が大幅アップ ― 第一種 茨城県土浦市 1965 PDF
第00250号 磁石式手動交換機― 日本における最古の交換機形式を残した磁石式電話交換機 ― 第二種 東京都武蔵野市 1961 PDF
第00251号 カーボンロール CARBOLEADER― 世界最長クラスのカーボンクラッドメッキロール ― 第一種 千葉県白井市 2012 PDF
第00252号 クーリッジX線管U型― 独自の工夫で取扱いを改善した初期のX線管 ― 第一種 福岡県福岡市 1925 PDF
第00253号 医療用X線装置「ダイアナ号」および関連装置― 最初期の医療用X線装置 ― 第二種 京都府京都市 1920~1923 PDF
第00254号 日立705形自動分析装置― 臨床検査に適した小型化、高効率化を実現した自動分析装置 ― 第一種 茨城県ひたちなか市 1983 PDF
第00255号 世界初の病院検査室用自動検体搬送「ベルトラインシステム」― 病院検査部職員自らの手で世界に先駆け開発 ― 第二種 高知県南国市 1984 PDF
第00256号 壁掛セパレート型エアコン MS-22SA― 現場の技術開発で薄型化を実現 ― 第一種 静岡県静岡市 1968 PDF
第00257号 ロータリーコンプレッサ B型シリーズ― 国内最初期のエアコン用ロータリーコンプレッサ ― 第一種 静岡県富士市 1969 PDF
第00258号 セイコー クオーツアストロン35SQ― 世界初のクオーツ式腕時計 ― 第一種 長野県塩尻市 1969 PDF
第00259号 世界初多局受信型アナログ電波修正時計「シチズン電波時計(Cal.7400)」― 世界で初めて多局受信機能を搭載した電波腕時計 ― 第一種 東京都西東京市 1993 PDF