順天堂大学は8月21日、日本人の早期乳児期における腸管内ビフィズス菌定着が、分娩直前の母体への抗菌薬投与の影響を受けることを発表した。

同成果は、同大大学院医学研究科マイクロバイオーム研究講座の井本成昭 助手、渡邉心 准教授、救急災害医学研究室の橋口尚幸 教授らの研究グループと、アサヒグループホールディングスのコアテクノロジー研究所、岩手県立磐井病院小児科・新生児科の共同研究によるもの。詳細は、英科学雑誌「Journal of Perinatology」に掲載された。

ヒトの腸管内には100~1000兆個もの細菌が定着しており、これは「腸内フローラ(腸内細菌叢)」と呼ばれる。近年の技術進歩に伴い、腸内細菌叢を網羅的に解析することが可能となり、細菌叢とヒトの健康との密接な関わりがわかってきている。例えば、腸内細菌叢の乱れによって、アレルギー疾患や肥満、がん、うつ病などの精神疾患といった、あらゆる種類の病気の発症との関連が明らかとなっている。

とりわけ乳児においては、生後6か月間における腸内菌種の占有率の変化や腸管内への定着が、アレルギーなどの疾患発症に将来的に影響を及ぼす可能性が示唆されている。中でも、早期乳児(ここでは生後1か月)の腸管内で最も優勢とされるビフィズス菌の腸管への定着は、さまざまなアレルギー性疾患の発症に関与しているという報告がされているという。ビフィズス菌が少ない乳児は、その後の生活の中でアレルギーの発症率が高くなる可能性が指摘されている。

これまで、ビフィズス菌の占有率や腸管への定着には、分娩様式(自然分娩、帝王切開)、栄養(母乳、ミルク)などが影響するとされてきたものの、その要因は不明であった。また、分娩時に感染予防を目的に母体の血液中に抗菌薬が投与されることがあるが、抗菌薬投与による影響についてはほとんど報告がないのが現状であったという。

そこで同研究では、岩手県立磐井病院の1ヶ月時健診を受診した、健常な日本人乳児33名の糞便を用い、研究を行った。33名のうち、帝王切開や前期破水などの理由で分娩直前の母体血中に抗菌薬が投与されたのは19名で、残りの14名に抗菌薬の投与はなかった。

各乳児の細菌叢を構成する菌の種類や数、占有率について、次世代シーケンサーを用いて調べた結果、ビフィズス菌の占有率は、母体血中へ抗菌薬投与が行われた群で、優位に低下していたという。一方、抗菌薬投与群での帝王切開児と自然分娩児の比較では有意差はなく、分娩様式とビフィズス菌の占有率の間に関連はないことが確認された。

  • 研究結果の概要

    研究結果の概要。分娩様式の違いではなく、分娩直前の母体血中に抗菌薬投与がされたかどうかが、腸管内へのビフィズス菌の定着に影響を及ぼすことがわかる(出所:順天堂大学Webサイト)

この結果から同研究グループでは、早期乳児期における腸内細菌叢へのビフィズス菌の定着には、分娩直前の母体血中への抗菌薬投与が影響するとした。今後はビフィズス菌の定着の違いや腸内細菌叢の多様性の違いに、どれだけの臨床的な意義があるか明らかにする必要があるとしている。

なお、分娩直前の抗菌薬投与は、安全な分娩のためには必要不可欠なものであり、その有用性は明らかである。今回の結果は、分娩直前に抗菌薬を投与された母親から生まれた乳児に対し、ビフィズス菌の定着を促すために何らかの介入を検討する必要性を示唆するものと考えることもできる。