近畿大学水産研究所と豊田通商、日本マイクロソフトは8月21日、これまで人手に頼っていた養殖現場での稚魚の選別作業に対して、AIやIoTなどを活用した業務効率化を図る「稚魚自動選別システム」を開発し、実証実験を開始したと発表した。
これまで近畿大学水産研究所では「近大マグロ」をはじめとした多くの魚種の養殖研究を行っているが、その中でもマダイは近畿大学水産研究所における養殖研究の大きな柱の一つとなっている。
現在、研究の一環として近畿大学水産養殖種苗センターでマダイ稚魚を生産し、大学発ベンチャーであるアーマリン近大を通じて全国の養殖業者に販売しており、日本の年間生産量の24%、約1200万尾に達している。
従来、稚魚を出荷する前に専門作業員による選別作業を行い、生育不良のものを取り除くなど基準を満たす魚だけを選り分けていたが、目検と手作業で行うため専門作業員の経験と集中力が高度に要求され、作業員自身への体力的負担が大きく、自動化が長年の課題となっていたという。
そこで、豊田通商と日本マイクロソフトは同研究に参画。共同でAIやIoTを活用して、画像解析と機械学習技術を組み合わせた稚魚の自動選別システムを開発し、実証実験を行っている。
豊田通商は、近畿大学水産研究所とのクロマグロの完全養殖事業も含め、研究所で行われている具体的な選定プロセスの知識と経験をもとに、自動化システムのハードウェア設計とプロトタイプを構築。日本マイクロソフトは、目視作業の要件をもとにMicrosoft AzureのIoT機能、ならびにAI機能であるCognitive ServiceとMachine Learningを活用することで、ポンプの流量調節をリアルタイムで自動化するシステムを設計・開発した。
通常、稚魚の選別作業はいけすからポンプで吸い上げた稚魚をベルトコンベアに乗せ、作業員の前を通過する間に生育不良の個体を目視で見分け、選別を行っている。ここで最も重要な役目を担うのがポンプの流量調節を行う担当者となり、吸い上げる水量が多すぎるとコンベアを通過する稚魚が多すぎてしまい、選別作業が追いつかない一方で、吸い上げる流量が少ないと含まれる稚魚の数が少なすぎるため、全体の作業効率が低下するという。
今回、開発中の自動選別システムではポンプ制御の自動化から取り組みを開始し、ベルトコンベア上の魚影面積とその隙間の面積をマイクロソフトのAIを活用して画像解析し、一定面積あたりの稚魚数を分析。
さらに、選別者の作業ワークロードを機械学習させ、作業のための最適値を割り出し、ポンプの流量調節作業を自動化するソフトウエアを試作した。現在は実証実験を継続し、データの収集・分析を行うととともに、改良した制御システムを2019年3月までに本番環境に実装することを目指している。
今後、ポンプ制御システムに次ぐ第2段階として、現在目視で行っている生育不良の個体を取り除く作業においても、画像解析と機械学習を組み合わせて自動化することを計画。豊田通商と日本マイクロソフトは、今回の取り組みに関して継続して技術支援、ならびにシステム開発を行っていくと同時に、第1次産業のような労働集約型産業においてAIとIoTを活用した更なるソリューション提案を行う考えだ。
最終的に、これら一連の簡単な選別作業をITで自動化・機械化することで、作業員の業務の負担軽減や業務改善につなげることに加え、経験を持つ優秀な人材は新たな分野で有効活用するなど、若手の人材確保に悩む漁業という第1次産業での働き方改革に貢献することを目指す方針だ。