米国航空宇宙局(NASA)は2018年8月3日、民間企業が開発中の有人宇宙船に最初に搭乗する、9人の宇宙飛行士を発表した。

米国は2011年のスペース・シャトル引退以来、宇宙飛行士の輸送をロシアに依存しているが、ようやく米国の地から、米国の宇宙船で、米国の宇宙飛行士の打ち上げが再開できる日が見えてきた。

しかし、民間宇宙船の開発には遅れも出ており、まだ予断を許さない。

  • 民間の有人宇宙船に最初に搭乗する9人の宇宙飛行士たち

    スペースXとボーイングが開発する有人宇宙船に最初に搭乗する、9人の宇宙飛行士たち (C) NASA

官から民へ移り変わる、米国の有人宇宙開発

アポロ計画で月に宇宙飛行士を送り込み、スペース・シャトルで多くの宇宙飛行士や科学者、技術者を宇宙に送ったNASAにとって、有人宇宙飛行はお家芸であり、NASAをNASAたらしめている要素のひとつだった。

その有人宇宙飛行を、NASAから民間に移管する構想が持ち上がったのは2005年のことだった。このころNASAは、民間にできるできることは民間に任せるとともに、米国の宇宙産業を育てることを目的に、国際宇宙ステーション(ISS)への物資と宇宙飛行士の輸送を民間企業に任せる計画を立ち上げた。

またこの背景には、老朽化したスペース・シャトルに代わる新しい宇宙船が必要とされたこと、そしてISSへの物資や飛行士の輸送を民間に任せることで、NASAは有人月・火星探査に注力できるという狙いもあった。

この計画には多くの米国企業が参加に名乗りを上げ、審査を経て、宇宙飛行士の輸送については大手航空・宇宙メーカーのボーイングと、当時まだ新興企業だったスペースXが選ばれた。またNASAは、両社に対し、資金提供をはじめ、技術面でも支援を続けてきた。また、実際に有人宇宙飛行を行うにあたって必要となる安全審査や認証もNASAが担当している。

そして現在、ボーイングはCST-100「スターライナー」(Starliner)、スペースXは「クルー・ドラゴン」(Crew Dragon)と呼ばれる宇宙船の開発を続けている。

この官から民へ移り変わる"代償"として、米国と、帯同する欧州や日本、カナダの宇宙飛行士は、シャトルが引退した2011年から、ISSとの往復にロシアの「ソユーズ」宇宙船を使わざるを得なくなった。当初、民間宇宙船の運用は2017年にも始まる予定だったが、開発の遅れにより、ロシア依存がいまなお継続。さらにロシアはソユーズの座席の価格を吊り上げるなど、代償と呼ぶには長く、手痛い状況が続いている。

  • シャトル引退以降はロシアの「ソユーズ」を活用

    シャトル引退以来、米国や欧州、日本などの宇宙飛行士は、ロシアの「ソユーズ」を使ってISSに訪れている (C) NASA

米国の有人宇宙飛行の再開を担う9人の宇宙飛行士

そして8月3日、この民間宇宙船の有人での試験飛行と、最初の商業輸送ミッション、すなわちNASAから支払われる運賃と引き換えに飛行士を輸送するミッションに搭乗する、9人の宇宙飛行士が発表された。

  • エリック・ボー(Eric Boe)
  • クリストファー・ファーガソン(Christopher Ferguson)
  • ニコール・オーナプー・マン(Nicole Aunapu Mann)
  • ロバート・ベンケン(Robert Behnken)
  • ダグラス・ハーレイ(Douglas Hurley)
  • ジョシュ・カサダ(Josh Cassada)
  • スニータ・ウィリアムズ(Sunita Williams)
  • ヴィクター・グローヴァー(Victor Glover)
  • マイケル・ホプキンズ(Michael Hopkins)

(本記事の最後に9人の宇宙飛行士の簡単なプロフィールを掲載しているので参照されたい)

このうちファーガソン宇宙飛行士はスペース・シャトルのコマンダー(船長)を、ボー、ハーレイ飛行士はパイロットを、またベンケン、ウィリアムズ、ホプキンズ宇宙飛行士は船外活動を行った実績を持つ、ベテラン中のベテランである。マン、カサダ、グローヴァー宇宙飛行士の3人はこれが初の宇宙飛行となる。

ちなみに9人全員が米国人で、"米国の地から、米国の宇宙船で、米国の宇宙飛行士の打ち上げの再開"と、まさに米国ずくめとなる。

現在のところ、その再開の火蓋を切るのはスペースXのクルー・ドラゴンになる予定である。クルー・ドラゴンはまず、今年11月に無人での試験飛行ミッション(SpX-DM1)を行い、そして2019年4月にベンケン、ハーレイ、カサダ宇宙飛行士の3人を乗せ、有人での試験飛行ミッション(SpX-DM2)を実施する予定となっている。

一方のボーイングのスターライナーは、今年末から2019年初めごろに無人試験飛行ミッション(Boe-OFT)を行い、そして2019年半ばに、ボー、ファーガソン、マン宇宙飛行士の3人を乗せて有人での試験飛行ミッション(Boe-CFT)を実施する予定である。

それぞれが有人での試験飛行を完了したのち、NASAはこれらの宇宙船が、ISSへの定期的な宇宙飛行士の輸送に使えるかどうかの最後の審査を実施。無事に通過して認証が得られれば、いよいよ商業輸送ミッションが始まることになる。

最初の商業輸送ミッションでは、スターライナーにはカサダ、ウィリアムズ宇宙飛行士が、クルー・ドラゴンにはグローヴァー、ホプキンズ宇宙飛行士が搭乗する。また、それぞれの宇宙船には4人まで搭乗できるため、残りの2座席には、NASAの宇宙飛行士はもちろん、日本や欧州、カナダを含む、他国の宇宙飛行士も座ることになるだろう。その割り当ては後日発表するとされる。

  • 民間有人宇宙船に最初に搭乗する9人の宇宙飛行士たち

    スペースXとボーイングが開発する有人宇宙船に最初に搭乗する、9人の宇宙飛行士たち (C) NASA