3つの酸素原子で構成されるオゾン(O3)。塩素や過酸化水素よりも強い酸化作用を有していることから、ほとんどの有機物を分解できる能力を持つことで知られる。また、還元反応により、酸素分子(O2)に戻りやすいという特徴もあり、浄水場や下水処理場、半導体工場、食品工場など、さまざまな産業分野で活用されてきた。
こうした優れた能力を家庭内でも活用したい。そう考えた家電メーカーを中心に、家庭内で活用できるさまざまな機器が提供されてきた。パナソニックもそうしたオゾンの活用を進める1社であり、同社は2018年8月21日より、独自のオゾンウォーター(オゾン水)生成技術を搭載することでトイレの汚れもニオイも抑えて、トイレ空間を従来以上に快適にした全自動おそうじトイレ「アラウーノ L150シリーズ」の受注を開始するほか、家庭内でのさまざまなシーンでの活用を狙っていくという。
オゾン水の作り方
オゾンの生成方法は主に、放電法、電解法、紫外線法の3種類があるが、プラントなどの産業用途では大型ながら、生成効率(消費電力に対するオゾン生成量)が大きい放電法が用いられている。しかし、家庭用では、置けるスペースに限りがあり、使える電力も考慮する必要があるため、電解法が主に用いられてきた。また、電解法は、直接水中にオゾンを生成するため、オゾン水をダイレクトに提供することが可能と言う特徴もある。
電解法の仕組みは、中学校の理科の実験で行なう水の電気分解そのもので、陽極と陰極、2つの電極を用いて電解を実施。通常の電極による電解の場合、陽極からは酸素が発生するが、白金(Pt)や二酸化鉛、ダイヤモンドを陽極として用いる場合、オゾンが発生することが知られている。ちなみに、パナソニックが買収した三洋電機では、かつて、絶縁材料である酸化タンタル(TaOx)とPtの混合物を電極材料として活用しようとした研究が行なわれていたが、実用化はされなかったようだ。
候補電極材料のうち、白金は高価かつ生成効率が小さい、また二酸化鉛は有毒性があるといった課題があったことから、パナソニックではCVDなどを用いて薄膜として生膜が可能なダイヤモンドを電極として採用するに至ったようだ。現に同社では、同電極を大型化して、産業用途に展開していくことについて、さまざまな課題があるとしており、オゾンウォーターを生成するデバイスの大きさも153mm×22mm×32mmで、比較的小型なものとなっている。
ただし、生成効率は30%ほどと高く、消費電力も使い方次第とは言うものの20W程度と、家庭内での利用が可能なものとなっている。
また、デバイスの構造としては、給電板のうえに陽極、イオン交換膜、陰極というシンプルな構成を採用したほか、水の流れを良くする「斜めスリット構造」を採用することで、オゾンの溶解効率を高めることに成功したとする。
家の中の汚れの原因にオゾン水は効くのか?
一般住宅内の水周りの気になる汚れといえば、シンクなどに付着した白い汚れや、風呂場の床などのピンク汚れ、黒かび、そしてシンクのぬめりなどだろう。
こうした汚れの多くは細菌や真菌(カビ)が原因だ。そのほとんどが病気を引き起こすような毒性は持っていないとされるが、いざ目の当たりにすると、気持ちの良いものでもないことは確かだ。
そんな家庭内の細菌やカビにオゾン水はどの程度の効果をもたらすのか。大阪府立大学 大学院生命環境科学研究科の向本雅郁 教授が調べたところによると、オゾン濃度を0.2/0.5/1.0mg/lとした10mlのオゾン水を、室温環境下で細菌の試験管(試験菌液0.1ml)に投入。1/3/5分に分けて反応を確認し、その後、残った細菌の培養を試みたところ、ほとんどの細菌が0.5mg/lで5分程度漬けた条件で99.9%以上不活化できることが確認されたという。
また、カビについても、同様の条件で実験を実施。その結果、こちらも実験に用いたすべてのカビについて、同様の99.9%の不活化を同程度の濃度と時間で実現できることを確認したとのことで、「デバイスとして、これまでの先行研究で確認されているのと同程度の性能を有していることが確認された」(向本教授)という。
さらに研究としては、実用的な条件下での研究も実施しており、こちらの成果については、11月に開催される日本防菌防黴学界 第45回年次大会にて発表する予定とのことである。
なお、オゾン水は、塩素に耐性がある菌に対しても効果が確認されており、向本教授によると、よごれの成長の仕組みを踏まえた場合、「家庭で細菌やカビが原因の『汚れ』がついたら、できるだけ早く、『汚れ』のもとであるそれらの菌を抑制することが重要となる」と説明しており、手軽にそうした菌の抑制が可能となるオゾン水の活用が広まることを期待したいとしていた。