大阪大学と東京工業大学は8月8日、PEG-ポリアミノ酸ブロックコポリマーとウベニメクスを用いたドラッグ・デリバリー・システム(DDS)を構築し、これにより肝臓がん幹細胞におけるウベニメクスの濃度を局所的に高めることができるようになったと発表した。また、標準的な抗がん剤と併用させることで、がん幹細胞を著しく減少させることに成功したとのことだ。

同成果は、大阪大学大学院医学系研究科の俊山礼志 大学院生(研究当時)、今野雅允 寄附講座講師、石井秀始 特任教授、江口英利 准教授、森正樹 教授、土岐祐一郎 教授らの研究グループと、東京工業大学の西山伸宏 教授らの協働した研究によるもの。詳細は、英国科学誌「Oncogene」に掲載された

これまで、同グループは肝臓がん幹細胞の表面マーカーとしてCD13を同定していた。CD13の阻害剤であるウベニメクスを添加することで、がん細胞が細胞死を起こすことが明らかであったが、固形がんではウベニメクスの局所濃度を高めることができなかったため、腫瘍組織の中の一部に存在するがん幹細胞を標的化することは困難であった。

  • 新たに構築されたDDSの概要

    新たに構築されたDDSの概要。このDDSに搭載されたウベニメクスをがん細胞で局所的に濃度を高めることで、がん幹細胞を死滅させることに成功した。

研究ではまず、高濃度のウベニメクスを運ぶDDSの開発を行い、ポリエチレングリコールとポリリジンを組み合わせたブロックコポリマーに、ウベニメクス20分子を結合したDDSを新たに構築した。

この手法を用い、腹腔投与および静脈注射によってマウスにウベニメクスを投与した結果、肝臓がんの体積が著しく減少することが確認された。これは、ウベニメクスを高濃度でピンポイントでがん幹細胞に運ぶことが可能であることを示すという。

  • 肝臓がんのマウスにDDSを用いて薬剤を投与した結果

    肝臓がんのマウスにDDSを用いて薬剤を投与した結果。ブロックコポリマーをウベルメクチンを投与したマウスについて、肝臓がん細胞が著しく減少した。

次に、ウベニメクスを搭載したDDSと既存の抗がん剤(アントラサイクリン系、シスプラ系、フッ化ピリミジン系)を併せてマウスに投与した結果、これらは相乗効果を示すことがわかり、がん幹細胞に細胞死を誘導できることが分かったとのことだ。

研究グループでは今後、がん幹細胞に対する薬効が示されていながらデリバリーの課題のあった薬剤のリポジショニングが加速することだけでなく、ブロックコポリマーは製造が比較的簡単であることから、他の薬剤への発展的な応用にも期待がかかるとしている。