宇宙開発ベンチャーのSPACE WALKERは8月1日、都内で記者会見を開催し、同社のプロジェクトについて説明した。同社が目指すのは、日本初の有人宇宙飛行。今後、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、IHI、IHIエアロスペース、川崎重工業、九州工業大学と連携し、オールジャパンで開発を進め、2027年の実用化を目指すという。

  • SPACE WALKERが開発するスペースプレーンのイメージCG

    同社が開発するスペースプレーンのイメージCG

なぜ有翼機なのか

同社の特徴は、何と言ってもスペースプレーンを開発していることである。スペースプレーンは、飛行機のような翼を持っていることが、一般的なロケットとの大きな違い。宇宙空間には空気が無いため、翼は軌道上では無駄な重量になってしまうものの、滑空して射場まで戻り、再使用しやすいのがメリットと考えられている。

有翼機といえば米国のスペースシャトルを思い浮かべる人が多いだろうが、有翼機の開発は、歴史的に茨の道でもある。数少ない実用例と言えるのがそのスペースシャトルであるが、運用コストは高騰。しかも人命を失う大事故を2回も起こし、2011年のフライトを最後に引退。それ以降、日米の有人飛行はロシアに依存している。

  • 有翼機の代名詞ともいえるスペースシャトル

    有翼機の代名詞ともいえるスペースシャトル。30年も運用された

日本でも、旧宇宙開発事業団の「HOPE」、旧宇宙科学研究所の「HIMES」などの開発計画があったが、いずれも中止。最近では、Virgin Galacticが「SpaceShipTwo」による宇宙旅行ビジネスを手がけているものの、墜落事故を起こすなど開発が難航。サービスの開始が大幅に遅れている。それだけ、有翼機は難易度が高いとも言える。

しかし、SPACE WALKERファウンダーの米本浩一氏(九州工業大学 教授)は、「この30年で有翼機を開発する技術が育ってきた」と述べる。米本教授は川崎重工業でHOPEに参画したあと、大学で有翼機の研究開発を継続。2005年から、実験機「WIRES」(WInged REusable Sounding vehicle)による飛行実験を繰り返し、経験を蓄積してきた

  • SPACE WALKERファウンダーの米本浩一氏

    SPACE WALKERファウンダーの米本浩一氏(九州工業大学教授)

  • これまで開発した「WIRES」

    これまで開発した「WIRES」。今後、米国で13号機と15号機を打ち上げる

SPACE WALKERは、大山よしたかCEOや眞鍋顕秀COOなど、若手経営陣が中心となって運営。それに加え、元三菱重工業の淺田正一郎氏や、元IHIエアロスペースの浅井達朗氏など、日本のロケット開発を長年牽引してきた重鎮が取締役として名を連ねる。

  • SPACE WALKERの大山よしたかCEO

    SPACE WALKERの大山よしたかCEO(アートディレクター)

  • SPACE WALKERの役員陣

    同社の役員。世代を超えた組織体制が特徴だという

淺田取締役は三菱重工業時代、HOPEの最後のプロマネだった。HOPEに関わった2人が、SPACE WALKERで再び集合。設立に際し、米本教授には「我々は間もなくリタイアする年代。それで新しい世代がまたゼロから有翼機開発をスタートするのはまずいのではないか」という思いもあったそうだ。

大山CEOは、「スペースプレーンが難しいことは分かっている」とした上で、「日本初の有人宇宙飛行を目指して研究を進めている。宇宙は遠い、限られた人達のものと思われているが、この研究が成功すれば、みんなが宇宙に行けるようになる」とコメント。「日本の技術を集めてスペースプレーンを開発していく」と決意を述べた。

開発ロードマップ

同社の究極の目標は「有人のオービタル飛行」(米本教授)であるが、当面の目標として、まずは無人のサブオービタル飛行を目指す。実用1号機として、全長9.5m、重量6.3tという科学実験用の機体を開発。2021年に打ち上げ、高度100km越えを狙う考えだ。

  • 有人周回飛行は2030年代の実現を目指す

    段階的に開発を進める。有人周回飛行は2030年代の実現を目指す考え

そのための試験機として、WIRES15号機の開発が現在進められていて、2020年に米国で打ち上げ実験を行う計画。15号機は全長4.6m、重量は1tで、実用1号機のほぼ1/2スケールとなる。

  • 開発中のWIRES15号機

    現在開発中のWIRES15号機。LNGエンジンを搭載する予定だ

15号機で大きく変わる点はエンジンだ。この機体では、初めてJAXAのLNG(液化天然ガス)エンジンを搭載する。これは、LNGを燃料、液体酸素を酸化剤として使う液体エンジン。比推力は液体水素のエンジンには劣るものの、密度が高いため燃料タンクを小型にできる、漏洩しにくいため軌道上でも長期保存が可能というメリットがある。

JAXAはGXロケットの第2段エンジンとして、LNG推進系の「LE-8」を開発。2009年には推力10tクラスの実機型エンジンの燃焼試験に成功していたが、GXロケット自体が開発中止となり、LE-8は日の目を見なかった。WIRES15号機に搭載されるのは、将来の宇宙探査用として研究され、より小型化されたものだという。

JAXAは、今年度から始まった研究開発プログラム「宇宙イノベーションパートナーシップ」(J-SPARC)の第1号案件として、SPACE WALKERに協力。LNGエンジンはWIRES15号機だけでなく、実用機でも採用する予定とのことで、事業化に向けサポートしていく。

実用1号機で宇宙空間に到達したあと、次に狙うのは小型衛星の打ち上げ市場だ。この実用2号機は、全長14.0m、重量30.2tに大型化。上段として使い捨ての小型ロケットを搭載した状態で打ち上げ、高度40kmで分離して発射、高度300~700kmの周回軌道に衛星を投入する。2023年の初飛行を予定している。

  • 実用2号機は飛行して射場に戻る

    高度40kmで小型ロケットを分離。実用2号機は飛行して射場に戻る

  • 他社ロケットとの比較

    他社ロケットとの比較。高度700kmに100kgの小型衛星を投入可能

そして、その次の実用3号機が、有人用の機体となる。全長は15.9m、重量は18.7tと、規模的には実用2号機とあまり変わらないものの、乗員2名、乗客6名を乗せ、3~4分程度の無重力体験ができるようになる予定だ。旅行代金は未定だが、眞鍋COOによれば「Virgin Galacticをベンチマークとしている」とのこと(SpaceShipTwoは1名25万ドル)。

  • 実用3号機の仕様

    実用3号機の仕様。推力10t級のLNGエンジンを3機搭載する予定だ

  • 射場は未定

    射場は未定だが、写真のように大樹町は有力な候補だという

同社の開発計画は、LNGエンジンという新技術はリスクであるものの、サブスケールの試験機から、実用機による宇宙空間到達、小型衛星の打ち上げ、有人飛行とステップアップしていく手法は手堅い印象。有人機の打ち上げのためには法整備も必要となるが、それを促すためにも、段階的に実績を重ねていくのは有効だろう。

  • 小型の無人機から始め、大型化と有人化を進める計画

    小型の無人機から始め、大型化と有人化を進める計画

本格的な資金調達はこれから

ただ、最大の課題はやはり資金調達になりそうだ。同社の想定では、科学実験用の実用1号機で100億円規模、小型衛星打ち上げ用の実用2号機で500億円規模、有人宇宙飛行用の実用3号機で1,000億円規模の開発費が必要。まずは、実用1号機を開発するための100億円を集めないと、次に進むこともできない。

資金調達について、眞鍋COOは「今のところエンジェル投資家を中心に回っているが、このあと巨額の開発費が必要になることは分かっているので、並行して機関投資家にも相談している」とのこと。技術開発と資金調達に成功し、日本の有翼機は蘇ることができるか。宇宙開発ベンチャーがますます面白くなってきた。