北海道大学(北大)は、抗マラリア剤アルテミシニンの母骨格6位の炭素を窒素に置き換えた分子を設計し、これまで合成が困難であったアルテミシニンの類縁体を簡便に迅速合成することに成功したと発表した。
同成果は、東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門の大栗博毅 教授、北里大学の大村智特別栄誉 教授、北里大学北里生命科学研究所熱帯病研究センターの岩月正人 准教授、北海道大学大学院理学研究院化学部門の及川英秋 教授らの研究グループによるもの。詳細は米国の学術誌「Organic Letters」に掲載された。
漢方薬の有効成分であるアルテミシニンやその誘導体アルテスネートは、赤血球内に侵入したマラリア原虫をほぼ一掃する薬効を示し、マラリア治療に革新をもたらした。最近では、アルテミシニン類をがんや他の感染症の治療に適用していく取り組みも活発になっている。
従来、アルテミシニン類の誘導体化(主となる構造保ったまま、一部を改変した類縁化合物をつくること)は、化学変換が可能なD環部にほぼ限定されてきた。また、簡便に化学合成できる抗マラリア剤候補として、複雑なアルテミシニンの構造を大幅に簡略化したOZ439などが開発されていた。
今回の研究では、アルテミシニンの構造を簡略化せずに窒素官能基や非天然型置換基を導入した6-アザ-アルテミシニン群を設計した。母骨格の6位の炭素を窒素に置き換える「元素置換戦略」により、モジュラー式2迅速合成、置換基の自在導入、母骨格の水溶性改善を試みた。
実際に、シンプルな3つの構築ブロックから、わずか4工程で6-アザ-アルテミシニン骨格を構築する合成プロセスを開発した。このアプローチにより、従来手付かずとなっていたC環部へさまざまな置換基を導入した類縁体群を手早く柔軟に合成できるようになった。また、今回合成したアザ-アルテミシニン群の中から、ルテミシニンよりも優れた治療効果を発揮するマラリア薬候補化合物の創製に成功した。
今回の成果を受けて研究グループは、同成果により、次世代のマラリア治療薬や新しい制がん剤の開発に発展することが期待されるとしている。