シーメンスは7月23日、同社のエネルギー事業に関する説明会を開催し、日本市場における事業拡大に向けた3つのビジネスの方向性を示した。
世界の潮流は再生可能エネルギーの活用
2017年の市場調査によると、グローバルの潮流として、発電所を新設する場合、分散化電源(再生可能エネルギー:再エネ)関連に、その投資額の総額のうち約70%が投じられるようになってきたという。これは、さまざまな要因があるが、その中の1つにESG(Environment/環境・Society/社会・Governance/企業統治)に対する注目の高まりが挙げら、投資家や金融機関、保険といった事業を支援する側の意思も、そうした企業活動を支援する方向に向いてきている。
そのため、そうした流れを受けて、すでに世界の発電量の約27%は再エネ由来で占められるようになってきたほか、再エネの普及が進んできたことにより、グリッドパリティはまだ難しいものの、平均的な売電コスト(入札コスト)を見ると、例えば1MWhあたりの風力発電(陸上)の価格は、ガス発電に匹敵するレベルにさまざまな国や地域でさがってきており、ブレークイーブンポイントには到達したものと言える状況になりつつあるという。
2020年に実施される発送電分離
こうした世界的な動きは、日本の市場にも徐々に影響を及ぼすというのが同社の見方。2020年には「発送電分離」により、大手電力会社は「発電部門」と「送配電部門」が別の事業者に分離することとなり、発電所の経営環境はがらりと変わることがその背景にある。例えば資金調達の方法1つ取っても、従来の社債ベースから、単独の発電事業者としてのプロジェクト単位でのファイナンスを実施したりすることができるようになるほか、発電所の所有も、特定目的会社を設立して、複数の企業から出資をつのって共同で運営するといったことも可能になる。こうしたさまざまな動きはすでに海外では当たり前のように採用されているが、日本では大手電力会社が市場の大半を持っていたことから、そうした動きは起こらなかったが、2020年の発送電分離により、同様のことが起こる可能性が高いという。
再エネ市場の拡大と、発送電分離に伴う市場環境の変化。ここで同社は、自社の有するガス火力発電が発電事業者を中心に、さまざまなニーズに対応する最適解になると主張する。その理屈は、というと、例えば、日差しの強い日、太陽光や風力といった再エネで多くの電力需要をまかなうことが可能となっても、曇ったり、風が止んだりすると、再エネの発電は停止してしまう。そこで、必要な電力を補うためには、別の発電、主に火力発電が急な需要変動に対しては活用されるが、石炭などの従来型の火力発電では、ある程度の時間をかけなければ、定格出力に到達できない。一方で、ガス火力であれば、20分程度で定格出力に到達できるという利点があるとする。
また、そうした需要の変化に、誰が対応するのかという問題が2020年以降は生じることとなる。独立した発電事業者としては、社会インフラとしての観点を抜けば、電力が不足している状態の競合他社を助ける義理はない。ここに新たな成長市場が生まれると同社では見ている。
日本市場攻略の鍵を握る3つのビジネス
今後、成長が期待できると同社が見ているのは3つの市場。1つ目は、旧来からの発電事業者向けに向けた高効率大型事業用ガスタービンのリプレースビジネス。LNGと、その排熱を活用するLNGコンバインドサイクル発電は、石炭火力に比べて、CO2の排出が少なく、かつ高い効率も提供できるというメリットが得られる点を売りにしており、同社も2017年8月に事業用の次世代タービンとして送電端65%を達成可能なフレームとして「HL型」を発表。すでに2020年より60Hzの初号機が米Duke Energyにて試運転が行なわれる計画のほか、2021年からは50Hzの初号機を英SSEが試運転を行なう予定としている。
2つ目が産業用ガスタービンコジェネレーション。これは、工場、特に発電プラントを有するような工場でのリプレース需要などが期待できるという。大型ガスタービンと同じく、コンバインドサイクル方式で、その効率は最新型で58%超。さまざまな燃料に対応できるほか、工場であまったガスや付加価値のない排ガス、液体燃料を燃やしたいというニーズにも対応可能であり、近年注目を集めている水素にも対応できることなどをアピールして市場の拡大を目指すとするほか、電力価格が今以上に高騰する可能性も考えられ、もし、そうなれば自前で電力を調達したほうが安くなる場合も考えられ、そうした新規ニーズへの対応も図っていくとする。
そして3つ目がバイオマス向け蒸気タービン。再エネの普及拡大の流れに沿って、バイオマス発電でも固定価格買取制度(FIT:FeedinTariff)が開始された一方で、着工までたどり着いていない案件も相当数あるという。そうした事業者に、特に従来ソリューション比で2%ほど高い効率を武器とした50MWクラス以上の高圧部と再熱部を分離した2車室再熱式蒸気タービンを前面に押し出すことで、採算性向上に貢献できることをアピールしていくとするほか、受注後のプロジェクト遂行体制やサービス体制の強化も進めていくことで、顧客からの安心・信頼を勝ち取っていきたいとする。
なお、同社では、こうした取り組みを進めていくことで、2020年代初頭に、相当数の新たなシーメンス製ガスタービン・蒸気タービンの運開が可能になるとしており、最終的には、日本市場でも確固たるOEMメーカーの地位を獲得することを目指すとしている。