PTCジャパンは7月17日、6月10日〜13日に米国マサチューセッツ州ボストンにて開催した「LiveWorx 18 デジタル変革カンファレンス」に関する国内メディア向け説明会を開催した。
この数年間、PTCはデジタルトランスフォーメーションの世界的な潮流に対応するべく、デジタル(仮想)世界とフィジカル(物理)の世界の融合(デジタルツイン)の実現を強力に推進してきた。今回のLiveWorx 18でもその方向性は変わらず、むしろさまざまな企業とのパートナーシップが強調された。なかでもロックウェル・オートメーションとの戦略的パートナーシップは、ロックウェルがPTCの株式10億ドル分を取得し、ロックウェル会長兼CEOのブレイク・モレット(Blake Moret)氏がPTCの取締役に就任するというもので、これにより両社のソリューションが組み合わさることとなり、工場におけるデータの取得が容易になるという。
このほかにもPTCのCreo 3D CADソフトウェアとANSYSのDiscovery Liveリアルタイム シミュレーションの連携や、ThingWorxプラットフォームとMicrosoft Dynamics 365 for Field Serviceの連携など、自社以外のソリューションを積極的に活用していくことをアピール。大企業のソリューションのみならず、将来に向けた投資として大学発ベンチャーの買収やパートナーシップ締結も進めて、エコシステムの拡大を図っているとする。
デジタルトランスフォーメーションの発展を支えるPLM
PTCのソリューションの1つにPLM製品「Windchill」があるが、デジタルトランスフォーメーションの流れの中にあって、そうしたPLMのマーケットポジションに変化が訪れてきているというのが同社の見解だ。
例えばPLMそのものがクラウドと連携する形で提供されるようになってきたほか、デジタルツインの真価の1つである、一度市場に提供された製品(フィジカルデータ)がIoTを通して、設計(デジタルデータ)へとフィードバックすることができ、その解析データを次の製品作りに生かすことができるクローズドなループを構築することができるようになってきた。また、AR(拡張現実)を組み合わせることで、PLMで管理されている生のデジタルデータを、現実世界にフィードバックして活用することも出来るようになってきた。
その結果、同社としても「PLM=Windchill」ではないとする。Windchillはあくまで、データを活用するための仕組みの1つであり、PLMに限らず、さまざまなデータを統合し、整理された状態として活用することを目的に、PLMの概念を拡張したプラットフォーム「ThingWorx Navigate」に含まれるツールの1つという位置づけとする。
そのため、例えばPLMのほか、CADやCAE、ERP、MES、DMSなどといったデジタルからフィジカルまでが接続される基盤となる「PLM Foundation層」の上に、システム開発モデリング言語「SysML」を中心に要求分析から、解析、テストなどをV字モデルで、さまざまなパートナーのソリューションを組み合わせて実現する「Enhanced PLM層」、そしてそのさらに上に、クラウドの上で情報リポジトリを構築する「PLM based IoT層」が存在する3層構造を1つのケースとして考えてみると、PLM based IoT層にて各種エッジ端末からのセンサデータの収集が行なわれ、その収集されたデータを元にした、解析の実施ならびに製品開発へのその知見のフィードバックをEnhanced PLM層で行なうというクローズドループの構築ができることとなる。「従来はBOMやCADデータがPLMとして管理されていたが、この考え方ではフィールドのセンサに由来する挙動なども情報として収集していく必要がある。Foundation層ではERPなどとも連携しているが、フィジカルで測定されたデータがデジタルの世界に戻ることで、製品に対する気付きが得られる。これにより、もう1度、現場の気づきを製品イノベーションにつなげたり、アフターサービスの向上につなげたり、と単に製品を開発するだけではなく、最終的な顧客価値を生み出すことにもつなげることができるようになる」と同社では説明する。
加えて、PLMの今後の方向性について、こうした流れを受ける形で、例えば、Windchillを用いた際に、機械が最適な設計判断を自動でしてくれるエンジンが登場しても良いのでは? ということで、WindchillとThingWorxの機械学習機能が融合できないか、という研究もすでに開始しているという。
PTCのIoT事業部初のハードウェア
PTCは基本的にこれまで長年にわたってソフトウェア企業であり、ハードウェアはパートナーと組んで開発することが基本であった。しかし、今回のLiveWorx 18においては、2018年12月の次期ThingWorxにて提供される予定の「ThingWorx Orchestration(開発コード名:Symphony)」の紹介の意味も込めたX-FACTORYというスマートファクトリのデモが行なわれた。
このデモそのものはヒロテックの米国法人ヒロテックアメリカをはじめとしたさまざまなパートナー企業の協力のもとに実現されたものだが、作るものをどうするか、ということでRaspberry Pi3 Model Bとアドオンボード「Sense HAT」を組み込んだPTCのIoTデモ用デバイス「Sigma Tile」を開発。実際のロボットとの協働ラインとしてX-FACTORYを活用し、Sigma Tileの組み立てを来場者に体験してもらったとのこと。SigmaTileは、少なくともPTCのIoT事業部としては初のハードウェア、という位置づけで、来場者が自身で組み立てを行なったSigma Tileは持ち帰ってもらって、自分で使ってみることができる、という取り組みとなっていた(必要なファイルやデータをPTCのWebサイトからダウンロードすることで会場外でも利用してみることが可能)。
具体的なデモの内容は、ロボットアームが作業台の所定の位置に各パーツを配置。作業台の上に設置されたカメラで物体を認識し、作業用モニタにARを活用して、どのように作業をすればよいかが表示、作業者はそれに従って、作業を行なうだけで組み立てができる。最後は検品して、重さが規定値内であれば出荷OKとなるが、この秤もThingWorxと連動しているほか、ねじ止め用の電動ドライバーもトルクの値や、締め付けの力といった値もThingWorxで制御しており、誰でも簡単に組み立てを行なうことを可能にしたという。
また、開発中のThingWorx Orchestrationだが、これは例えばCRMから機器管理番号とユーザー情報を、Whinchillから部品情報を、そしてSAPからどこの倉庫に部品がどれくらいストックされているのか、といった在庫管理情報などを集めてきて、部品の在庫が不足していれば発注をしたり、キッティング作業や発送のためのワークオーダーの作成を支援したり、急ぎの対応であればメールではなくメッセンジャーを活用してオーダーを送付したり、といった作業フローを容易に作ることを目的としたもの。フローの動作を他社製アプリ含めて、WebベースのGUI上で作成することができるようになる予定だという。