シーメンスPLMソフトウェアは7月11日、都内でプライベートカンファレンス「Siemens PLM Connection Japan 2018」を開催。それに併せて、プレス向け説明会を実施。同社の統合システムシミュレーションプラットフォーム「Simcenter」のデジタルツイン製品開発への活用に向けた取り組みなどの説明が行なわれた。
シミュレーションと現実の融合が進むデジタルツイン
近年、デジタル(シミュレーション)の世界の情報と、現実(リアル)の世界の情報を結びつけることで、製品の設計、開発、製造、販売、そして新たな製品の開発といったライフサイクルをスパイラル的に発展させることを可能とする「デジタルツイン(Digital Twin)」がものづくり産業を中心に、グローバルで注目を集めている。実世界のデータを、設計モデルにフィードバックが可能となるデジタルツインを活用しようと思えば、自ずと設計・開発環境も変化する必要がある。
「Simcenterも、現在の開発の焦点は、そうした顧客の製品開発ニーズの変化に対応することだ」とシーメンスPLMソフトウェアでシミュレーション&テストソリューション担当シニア・バイスプレジデントを務めるヤン・ルリダン(Jan Leuridan)氏は語る。
こうした変化への対応を図るため、現在、Simcenterを開発するうえで、シーメンスPLMでは2つの原則を掲げているという。1つ目は製品開発サイクルにおける製品設計の早い段階から検証を実施できるようにすることで、発売までの短TAT(Turn Around Time:ターンアラウンドタイム)化を実現可能とすること。2つ目は、メカトロニクス、制御、エレクトロニクスなどの融合が求められる現在の開発において、そうした複雑なシステムのシミュレーション検証を可能とするModel Based Systems Engineering(MBSE)をサポートすることであり、こうした原則の実現に向け、多くの企業の買収を継続して行なってきた。2016年にCD-adapcoを買収したほか、2017年には半導体や組み込み業界でも話題になったMentor Graphicsの買収もそうだが、自動車関連ソリューションを手がけてきたTASS Internationalや、電磁界解析ソフトウェアを手がけてきたInfolyticaなども買収をするなど、ポートフォリオの拡充を図ってきた。
同氏は、「0Dや1Dシミュレーション、3D CAE、試験、設計の探索(最適化)といった機能の統合は、シーメンスPLMだけが提供できるもので、コンセプト段階でのシミュレーションから、開発段階における詳細な解析まで、あらゆる開発の工程において、設計の検証を行なうことができるソリューションを提供しているめずらしい企業」と自社を評価。また、開発の現場のみならず、デジタルツインで、製品が実際に使われている状態のデータを取得できるようになることから、そうしたデータを製品の改良や次世代製品の開発に生かすことも可能できる点も強調した。
さらに、「こうしたデジタルツインを活用することで、実際に活用されている状態の生のデータをシミュレーションデータと比べることが可能となる。そういった意味では、我々は、IoTにおいて、顧客の製品をどのようにすれば、よりよく利活用できるのか、といったノウハウを有している」とのことで、単なるソリューションベンダというポジションだけではない、カスタマにとっての最良のパートナーになれるとも説明した。
すべての開発ステップをデジタルでつなげる
MBSEを実現するためのシーメンスPLMのソリューションが、製品の開発から市場投入までの全プロセスを駆動して、製品ライフサイクル全体にわたる連続的なエンジニアリングを可能にする「システム駆動型製品開発(SDPD:Systems-Driven Product Development)」である。
これにより「Validation」と「Verification」を含めて、製造計画から生産までのすべてのステップをデジタルでつなげる(デジタルスレッド/Digital Thread)ことができるようになるとしており、「この考えを実現するために、シーメンスPLMでは、SimcenterとTeamcenterの連携を可能とした。これにより、すべてのステップにおけるCAEやCFD、3Dなどを含めたさまざまなシミュレーションデータを管理できるようになったほか、さまざまなモデルとの連携が可能になった」とする。
さまざまな分野で活用が進むSimcenter
着実に進化を続けるSimcenterは、機能が強化されるにつれ、さまざまな分野での適用が進んでいるとシーメンスPLMで数値連続体力学(Computational Continuum Mechanics)担当バイスプレジデントを務めるジャン・クロード・エルコラネリ(Jean-Claude Ercolanelli)氏は説明する。
例えば、少々前の話となるが、メルセデス・ベンツは、Cd値(空気抵抗係数)は0.19を実現したコンセプトカー「IAA(インテリジェント・エアロダイナミック・オートモビル)」の開発に際し、汎用熱流体解析プログラム「STAR-CCM+」を活用。従来のコンセプトカー開発の半分ほどの時間で開発を終えることに成功したという。
また、Imperial College Londonでは甲状腺がんの切除手術のシミュレーションにCFDが活用されたほか、船舶用ディーゼルなどを手がけるMAN Diesel & turboでは船のプロペラ設計にSTAR-CCM+を活用、そして川崎重工でも、ガスタービンの開発にSTAR-CCM+を活用するなど、さまざまな産業分野で活用されているとし、シミュレーションの活用が、よりよい設計を実現する手助けになっているとする。
さらに同氏は、「STAR-CCM+にはDesign Exploration(設計探査)の機能が搭載された。製品開発は、すでにある1つの問題に対し、1つのシミュレーションだけを実行すれば解決できる、という時代ではなくなった。そうした状況で、簡単に、どうすればもっと優れた設計につなげられるか、を見つけ出す必要がある。こうした機能を活用してもらえれば、より手軽に設計の最適化を図ることができる」とし、カスタマにSimcenterのどういったツールがどのような機能を持っているのかに対する理解を深めてもらうことが、Simcenterを最大限に活用してもらえることにつながるとする一方、シーメンスPLMとしても、投資を継続して行なうことで、今後も、カスタマが成功するために進めるデジタルトランスフォーメーションをさまざまな角度で支援を行なえるように、さらなる機能の拡充、そして使い勝手の向上を図って行くとしていた。