京都大学(京大)は、チンパンジーについて、DNAのメチル化を検出することによって、これまで困難と考えられてきた年齢推定を可能にしたと発表した。
同成果は、京都大学野生動物研究センターの伊藤英之 特任研究員、鵜殿俊史 特任研究員、平田聡 教授、村山美穂 教授らの研究グループによるもの。詳細は英国の学術誌「Scientific Reports」にオンライン掲載された。
直接観察が困難な野生動物の研究において、フンや羽根から得られるDNAは、性別、個体識別、血縁関係などさまざまな情報が得られる貴重な手がかりだ。しかし、DNA配列の情報は生涯にわたって不変なため、年齢の情報を知ることは、困難とされてきた。
こうした背景の中で、近年、年齢によってDNAのメチル化の程度が異なることが注目され、DNAから年齢推定ができる可能性がでてきた。しかし、ヒトにおいては法医学へのPA応用の可能性が検討されている一方で、野生動物については報告数が少ないのが現状だった。
今回の研究では、年齢の判明している飼育チンパンジー20試料(採取時の年齢2-39才)について、健康診断時に採取し冷凍保存した血液からDNAを抽出し、ヒトで年齢とメチル化の関連が報告されている遺伝子ELOVL2、CCDC102B、ZNF423をPCR増幅し、塩基配列の相同性を確認した。また、DNA300ngをバイサルフェイト処理した後、配列にもとづいて設計したメチル化対応プライマーでPCR増幅し、塩基配列を解析した。
その結果、ELOVL2は年齢と正の有意な相関があることがわかった。また、CCDC102BとZNF423は有意はなかったが、年齢と共に減少する傾向がみられた。これらの傾向は、ヒトに関する先行研究とも一致していた。加えて、20年間の比較では、メチル化割合の増減に個体差が見られた。相関が低かったZNF423を除いて、ELOVL2とCCDC102Bの2遺伝子の5か所と年齢の相関係数は0.74と高く、誤差は5.4年だった。したがって、これらの遺伝子を指標として、ある程度の年齢推定が可能と考えられるという。
今回の成果を受けて研究グループは、寿命の長い種において、対象個体の年齢や集団の年齢構成を推定することができれば、今後、生態の解明に貢献することが期待できるとしている。