東北大学は、同大の研究グループが、就眠運動を引き起こす分子(イオンチャネル)を初めて発見し、それらが葉の上面側と下面側の細胞で不均等に発現することで、葉の動きが生まれることを明らかにしたことを発表した。

この成果は、東北大大学院理学研究科(兼務 同大学院生命科学研究科)上田実教授、及 川貴也大学院生、石丸泰寛助教、東北大学大学院工学研究科の魚住信之教授、浜本晋助教、岡山大学大学院環境生命科学研究科の村田芳行教授、宗正晋太郎助教、 岩手大学農学部の吉川伸幸教授らによるもので、米国科学誌「カレント・バイオロジ ー」に掲載された。

  • 就眠運動は紀元前から人類を魅了した(出所:東北大ニュースリリース※PDF)

    就眠運動は紀元前から人類を魅了した(出所:東北大ニュースリリース※PDF)

マメ科植物には、夜に葉を閉じ、朝には再び葉を開く就眠運動というユニークな現象が見られる。就眠運動に関する最古の記録は、紀元前アレキサンダ ー大王の時代に遡り、進化論のダーウィンが晩年、膨大な観察研究を行った。昨年度ノーベル生理学医学賞の対象となった生物時計は、植物の就眠運動の観察から発見された。しかし、就眠運動の分子機構は、現在まで全く不明であり、関連する分子すら見つかっていなかった。

研究グループは、就眠運動を制御するイオンチャネルとして、アメリカネムノキから、カリウムチャネル SPORK2、陰イオンチャネル SsSLAH1および SsSLAH3 を発見した。このうち、陰イオンチャネル SsSLAH1が、就眠 運動のマスター制御因子として機能する。

上田教授らは、葉の運動とイオンチャネ ルの関連を明らかにするため、葉の付け根の上下両面側の運動細胞を分離し、各々におけるイオンチャネル遺伝子の発現量を時間を追って調べた。細胞の収縮には、3つのチャネル全てが必要だが、陰イオンチャネルSsSLAH1は、葉を開く朝方に下面側だけで発現しており、これによって下面側のみで運動細胞が収縮する。このようにして葉の下面側が縮むことで、それに引っ張られるように、葉が外側に倒れて「開く」ことがわかった。

陰イオンチャネルSsSLAH1は、朝方に葉の下面側(flexor)の細胞だけで発 現し、葉の上面側(extensor)の細胞では発現しない。このため、朝方に葉の下 面側の細胞が収縮し、それに引っ張られるように葉が外側に倒れて開く(出所:東北大ニュースリリース※PDF)

陰イオンチャネルSsSLAH1は、朝方に葉の下面側(flexor)の細胞だけで発 現し、葉の上面側(extensor)の細胞では発現しない。このため、朝方に葉の下面側の細胞が収縮し、それに引っ張られるように葉が外側に倒れて開く(出所:東北大ニュースリリース※PDF)

また、これらイオンチャネルの発現制御は、朝方に働く時計遺伝子 SsCCA1の支配下にある。SsCCA1は、隣り合う細胞間で異なる制御パターンを持ち、葉の下面側でのみ SsSLAH1遺伝子の発現制御に関与する。葉の上面と下面という隣り合う細胞間で、時計遺伝子 SsCCA1が異なる遺伝子発現制御パターンを持つようになったことで、就眠運動という生物現象が発生したと推測できる。

この研究は、ひとつの遺伝子の発現制御が、生物の個体現象をコントロールすることを明確に示しており、生物時計によって生物の行動が制御される仕組みの解明に大きく貢献することが期待できる。また、この発見によって、ダーウィン以来の謎であった、植物の就眠運動現象の理解も大きく進むことになるとしている。