宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、IHI、川崎重工業、SUBARU、日立製作所、三菱重工航空エンジン、三菱電機およ経済産業省との連携のもと、CO2排出などの環境負荷を抜本的に低減する航空機の電動化技術を開発するとともに、日本の航空産業の発展に向けて産業界のイニシアチブを醸成することを目的とした「航空機電動化(ECLAIR)コンソーシアム」を7月1日に発足したことを発表した。
世界的な潮流となりつつある航空機の電動化
すでに自動車の分野では、電動モータとエンジンを組み合わせたハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)などが販売され、一定の市場を形成しているが、航空機業界も、近年、旅客需要が増加しており、それに伴い、航空機の数も増加している。一説には今後20年間で、約2倍の飛行機が大空を飛ぶことが予測されており、それに伴い、CO2の排出量も倍増することとなり、地球の気候変動の側面から、燃費性能の向上などが求められているが、これまで燃費向上に寄与してきたエンジンの大口径化は近年、そのサイズが行き着くところまで到達した感があり、これ以上の劇的な大型化は望めず、まったく新たな技術で、課題を解決する必要がでている。
そこで注目されるのが電動化による環境負荷の低減で、こうしたニーズを背景に、バッテリー、インバータ、モーターなどの電動化に必要な要素技術の性能向上が進んできたほか、米国連邦航空局(FAA)の連邦航空規則(FAR) Part23(小型機)が2017年に改訂され、電動航空機に適用が可能になるなど、市場としての整備も整いつつあり、世界各地で開発競争が激しくなりつつあるという。
航空機の電動化実現に向けた研究を推進
同コンソーシアムは、日本は、電動化の適用が可能な個別の技術に対するポテンシャルは高いものをもっている企業がかなりあるものの、それらを組み合わせた飛行実証などは海外に後れをとっており、そうした企業などと連携することで、日本の企業が新興市場となる電動航空機での存在感を増すことを目指すものとなる。
JAXA航空技術部門 次世代航空イノベーションハブ ハブマネージャの西沢啓氏は「航空機の電動化には、大きくジェットエンジンを用いない完全電動化(Full Electric/Pure Electric)、ジェットエンジンと電動モータを組み合わせたハイブリッド方式(シリーズハイブリッド方式ならびにパラレルハイブリッド方式)が存在し、それぞれにメリット・デメリットが存在するが、まだ最適解はでておらず、適用する航空機の対象によっても異なってくる。そういった意味では参入障壁は高いが、実用化はされていない分野であり、業界地図は白紙と言え、国内企業にも参入チャンスがある」と説明する。
具体的に同コンソーシアムでは、以下の3つを事業内容として推進していくという。
- 社会実装に向けた将来ビジョンとロードマップの策定
- 革新的技術を創出するための挑戦的研究開発
- 国内産業界のイニシアチブを醸成するための枠組み作り
最終的な目標は、旅客機の電動化とするが、長期的な目標となるので、それにつながる短期的な計画についての明確化も進めていくとするほか、オープンフォーラムを開催して、情報や知見についてはコンソーシアム外部との情報交換も進め、新規会員の拡大も図っていくとする。
産官学で挑む日本の航空機電動化の取り組み
コンソーシアムの枠組みは、今回の発表に名を連ねた8者が将来のビジョン策定を行なう「ステアリング会議」と呼ばれる会議のメンバーで、それ以外に一般会員やオブザーバーで構成される。
また、実際の技術開発は、一般会員から選定されたメンバーで構成される「技術開発グループ」が将来ビジョンに基づいて共同で開発を進めていく予定としている。
すでに7月9日時点でオブザーバに国土交通省航空局、全日本航空事業連合会、東京大学、日本航空宇宙工業会、防衛装備庁航空装備研究所、文部科学省研究開発局宇宙開発利用課の6機関、一般会員は本田技術研究所(ホンダ)、デンソーといった企業のほか、東北大学、名古屋大学、愛知県など合計8機関が所属しており、今後も、広く加盟を呼びかけていくという。
なお、同コンソーシアムは設立したばかりということで、具体的な目標などについては、今後策定していくとしているほか、2018年12月21日にオープンフォーラムを開催し、そうした方向性などを会員企業などに提示する予定としている。