マンチェスター大学の研究チームは、水を分子数個分の厚さまで薄膜化すると、通常の水と比べて誘電率が異常に低くなる現象を発見したと発表した。最も身近な物質でありながらさまざまな異常性をもつことで知られる水の新たな性質として注目される。研究論文は科学誌「Science」に掲載された。
マンチェスター大学に設置された英国立グラフェン研究所(NGI:National Graphene Institute)のLaura Fumagalli博士が研究を主導した。グラフェンの研究で2010年にノーベル物理学賞を受賞したアンドレ・ガイム(Andre Geim)教授も参加している。
絶縁体に外部から電場をかけると誘電分極によって電荷の偏りが生じる。この偏りの度合いを誘電率と呼ぶ。誘電率が高い物質ほど、外部電場に対する応答性が高いといえる。
ある物質の誘電率を真空の誘電率で割った値を比誘電率εで表す。水(不純物イオンを含まない絶縁体の純水)の場合、室温条件での比誘電率εは約80であり、ガラス、ゴム、木材などその他の身近な絶縁材料と比べると比誘電率が1桁大きいという特徴がある。
水の誘電率が大きい理由は、水分子のもつ双極子モーメントが大きいためであると説明できる。したがって、水を極端に薄い薄膜状に閉じ込めた場合には双極子の回転自由度が減るため、誘電率も低下することが予想される。ただし、その値が実際にどの程度になるのかについては実験が難しく、これまでよくわかっていなかった。
研究チームは今回、原子レベルの平坦さをもたせた2枚の壁の間に水を閉じ込めて、壁同士の間隔をさまざまに変化させながら水の局所的な静電容量を測定する実験を行った。壁の間隔は最小で1nmまで縮めた。
この実験の結果、水の誘電率低下は、予想を超える異常なものであったと報告されている。分子2~3個分の薄さの空間に閉じ込められた水の比誘電率εは約2まで下がり、外部電場に対してほとんど応答しなくなる現象が見られたという。
水の薄膜によって表面を覆われた物質の挙動は、生命現象をはじめとしてさまざまな分野に関係しているため、今回発見された水の異常性は、基礎科学だけでなく応用面でも重要な意味をもつと研究チームは強調している。