ロボットと乗り物が融合した新しい機械生命体
千葉工業大学・未来ロボット技術研究センター(fuRo)は7月4日、変形する搭乗型・知能ロボット「RidRoid」(ライドロイド)シリーズの第1弾として「CanguRo」を発表、東京スカイツリータウンキャンパスにて報道陣に公開した。全長75cmの3輪ロボットで、シーンに応じて、ロボット(ロイドモード)と乗り物(ライドモード)に変形することが可能だ。
CanguRo(イタリア語でカンガルーの意味)は、fuRoとデザインエンジニアの山中俊治氏が共同開発したもの。fuRoの古田貴之所長によれば、「AI時代の"イノベーティブな乗り物"」を作ろうというのが出発点だったという。
CanguRoが目指すイメージとして、最も近い存在は馬だ。古田所長は、「かつて馬は乗り物でありパートナーであった。CanguRoは、馬と同じような関係のロボット。あるときはパートナーの知能ロボットになり、あるときは走る楽しさが感じられる乗り物になる。ロボットと乗り物が融合した新しい機械生命体だ」と説明する。
ロイドモードとライドモードの違い
ロイドモードでは、自律的に人間に追従し、荷物運びを手伝うようなことができる。頭部には、レーザーレンジファインダを内蔵。SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術で、自己位置の同定と地図の作成をリアルタイムで行うことが可能だ。タブレット端末を使い、今いる場所まで呼び出すようなこともできる。
ライドモードでは、人間による操縦が可能だ。ハンドルを回すと、速度に応じて最適な角度に車体が自動的に傾き、まるでスキーのような感覚で旋回してくれる。また内蔵したボディソニックスピーカーにより、サドル越しにCanguRoの"鼓動"を感じ、移動速度を直感的に感じ取ることができるようになっている。走行速度は最高10km/h。
AIの受け皿となるRidRoid
単なる機械ではなく、馬のようなパートナーになるために、重要になってくるのはAIの活用だ。古田所長は、「AI技術が進化する中、AIをどう乗り物に使うかという解が、世の中に見つからない。だから乗り物とロボットを融合した、AIの受け皿になるようなものとしてRidRoidを企画した」と、開発の狙いを説明する。
AIで活用するため、CanguRoの前方には広角カメラを搭載。現在、シーン認識の機能を開発中だという。シーン認識というのは、今はどういう状況で、人間が何をやろうとしているのかを理解することだ。単なる顔認識や物体認識よりも1段階上の技術と言え、人間が要求しそうなことを先読みして、行動することが可能になる。
これが応用されれば、将来的には、たとえば買い物の支援中、人間が商品を手に取ったらカゴに入れやすいように移動するとか、あるいは部屋の中で出かけるそぶりを見せたら、ライドモードに変形して待つとか、まさにパートナーと感じられる存在になるかもしれない。
なおCanguRoはコンセプトモデルという位置付けであり、販売は計画されていないが、要素技術を活用したビジネス展開が期待される。その1つが、今回、日本トムソンと共同開発したインホイール駆動ユニットである。
CanguRoの"原型"といえる「ILY-A」(2015年3月に開発)では、駆動ユニットの重量は約2kg。CanguRoは、サイクロイド機構の減速機を新規開発し、ほぼ同等の性能を、半分の重量で実現した。小型軽量化したことで、駆動ユニットをタイヤの中に収めることができた。小型ながら、傾斜が10°程度の坂道であれば上れるほどのトルクがあるという。
「この車輪とコンピュータとセンサーを取り付けたら、簡単に自動操縦の乗り物を作ることができる」と古田所長は述べる。日本トムソンによれば、まだ具体的な販売計画はないそうだが、量産化されれば、様々なメーカーからこれを使った製品が登場する可能性はあるだろう。
古田所長は、「我々はいつもモノを作ることが目的ではない。真の目的は、乗り物で新たな価値を作り、社会変革を起こすことだ」と述べる。CanguRoに続く第2弾もすでに構想中とのことで、「これからRidRoidのようなモノが世の中でたくさん使われる。人間と乗り物との新しい関係を生み出し、社会を元気にしていきたい」とアピールした。