HIROTSUバイオサイエンス(ヒロツバイオ)と日立製作所は7月4日、線虫の嗅覚機能を利用したがん検査方法「N-NOSE」の実用化に向けた大規模臨床検体解析の実現を目指し、新たに解析処理数を向上させた「高スループット自動撮像装置」を開発したこと、ならびに7月2日付で同装置を用いた臨床検体解析の推進を目的に、日立の研究か発グループ基礎研究センタ内に「HIROTSUバイオ・日立共同実験室」を開設したことを発表した。

線虫を使ってがんを判定する技術

N-NOSEは線虫ががん患者の尿には近づき、健常者の尿からは離れる特性を利用した検査技術で、両社は2017年4月より共同研究を進めてきた。これまでに、主要ながんを含む18種類以上のがんを検出できることを確認したほか、その検知精度も約90%と高い値を示しており、ステージ0~Iという早期がんでも検知できることも確認されている。

  • 線虫を用いたがん検査「N-NOSE」の概要

    線虫を用いたがん検査「N-NOSE」の概要。がん患者の尿の匂いが好きな線虫を使うことで、がん患者の尿には近づき、健常者の尿からは離れることで、がんであるかどうかを判断する

  • 2018年6月時点での線虫が検知できるがんの種類

    2018年6月時点でのN-NOSEで検知できるがんの種類。今後も増加していく見込みだという

  • ステージ0~Iのがん検出感度のほかの手法との比較

    ステージ0~Iのがん検出感度のほかの手法との比較

  • 数百例の検体を検査した場合でもステージ0~Iの検出感度は約9割

    数百例の検体を検査した場合でもステージ0~Iの検出感度は約9割と、高い値を維持できているという

今回、新たに開発された試作2号機と呼ばれる装置は、従来の試作1号機では1日あたり3~5検体であった解析スループットを、日立が新たに開発した容器内に4個の走性試験領域を有する「マルチ走性試験容器」と、1分間に1枚の撮像が可能で、最大10枚を保持できる高スループット自動撮像装置を組み合わせることで、1日あたり100検体以上の解析を実現可能としたもの。

ヒロツバイオ 代表取締役の広津崇亮氏は、「尿検査なので苦痛が無く、必要な量も1滴程度で健康診断で得たものを使うことができる。現状、15~18種類のがん種に線虫が反応することが確認されてきており、小児がんの検査もできる可能性が見えてきた。ステージ0~1でも90%程度の精度を示しており、精密ながんの検診を受ける前に、がんのリスクがあるのかどうかを数千円程度で調べることができる1次スクリーニングとしての活用が期待できるようになってきた」と現状を説明。2020年1月からの実用化に意欲を示した。

  • N-NOSEはがんの1次スクリーニングとして活用されることが期待される

    ステージ0~Iの検出感度が高く、かつ線虫を使うため、数千円程度のコストで提供できることから、N-NOSEはどこにがんがあるのか、といった精密検査や、どういったがんであるか、といったがんの特定より前段階の、がんの可能性があるか否かといった、1次スクリーニングとしての活用が期待される

その実用化に向けた取り組みとしては、すでに全国4か所に研究拠点を設置し、いずれの場所でも同じ結果が出ることを確認しているほか、世界展開に向け、オーストラリアのクイーンズランド工科大学と連携し、共同研究を開始したという。

また、見つけにくいがんとして知られる膵がんに対する早期発見に向けた研究や、線虫の遺伝子を操作することで、がんの種類を特定できる可能性も理論的に示されたとのことで、さらなる活用に向けた研究も併せて進めていく段階にあるとする。

大量検体の解析を実現するための自動解析装置

こうした対応できるがんの種類が増え、実際にビジネスとしてがんの可能性の有無を調べる1次スクリーニングサービスがスタートすれば、全国から大量の検体が同社の研究施設に送られてくることとなり、それを随時解析する必要がでてくる。

両社の協力関係は、こうした大量検体の解析を実現することを目指したもので、試作1号機で、分注システムならびに撮像・画像解析システムの自動化が本当にできるかの評価を実施。今回の研究では、一連の解析の流れの中でもっとも時間のかかる自動撮像部分の高スループット化を試作2号機で狙い、実際に1日あたり100検体程度の解析が可能であることを確認したという。

  • N-NOSE自動化に向けた試作1号機

    試作1号機は、実際に自動化できるかどうかの判断のために開発されたもので、スループットなどは考慮されていなかった

  • 撮像・画像解析システムの高スループット化を目指して開発が行なわれた試作2号機

    試作2号機は、フロー全体でもっとも時間がかかる撮像・画像解析システムの高スループット化を目指して開発が行なわれた

なお、両社は今後の共同研究として、完全自動化システムの開発を目指すとしており、次の目標としては分注システムの高速化を掲げている。ただし、2020年に予定しているサービスインの時点では、全自動化は難しいとの見方を示しており、まずは人的リソースと撮像の自動化のハイブリッド工程での対応になるのではないかとしている。

  • 日立とヒロツバイオが共同実験室を開設

    共同実験室が開設されたことで、実用化に向けた研究が加速されることとなる