用途が広がるパワー半導体の世界
あらゆるもののデジタル化(デジタライゼーション)が進む現在。その進展を支えるのが半導体、中でも電力のコントロールなどを担うパワー半導体である。そんなパワー半導体分野で長年トップクラスのシェアを維持し続けている会社がある。独Infineon Technologies(日本法人:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン)だ。
同社のパワー半導体事業はIndustrial Power Control(IPC)とPower Management & Multimarket(PMM)に分けられるが、その合計は全社売り上げの約半数を占めるほどである。事業範囲としては、主に高電圧分野などを担当するのがIPCで、低電圧分野がPMMといった具合に分かれており、IPCのビジョンとミッションについて、同社Division President, Industrial Power ControlのPeter Wawer(ピーター・バーウァー)氏は、「無限のエネルギーの世界を推進することを目指すのがビジョンであり、そのために我々は、さまざまな産業分野にスマートかつ高効率な半導体ソリューションを提供することをミッションとして掲げている」と説明する。
そんな同社のIPC事業部が現在注力しているのが、「発電」「送電」そして「エネルギーを消費する存在(モノ)」である。特に、再生可能エネルギー分野は、従来の発電ソリューションに比べて半導体使用量が多く、その普及も後押しとなっているという。「送電にしても、例えばドイツでは、洋上風力発電によって生み出された電力を国内の南部に高圧送電するといった取り組みが進められており、高耐圧の半導体に対するニーズが高い」と発電所のみならず、エコシステム全体での半導体使用量が多いことを指摘する。
また、そうして生み出された電気を活用するさまざまなモノについても、従来は産業機器のモーターコントロールなどが軸となっていたが、近年の電気自動車の普及による充電ソリューション含めたエコシステムの構築といった新たなビジネス領域が誕生。今後、協働ロボットの普及や、バスやフリート(商業車)の電動化などによるさらなる半導体ニーズの増加が期待されるほか、将来的には電気飛行機や電気船、といった市場も拡大することが期待されている。
積極的な投資の継続で高い成長率を維持
「Infineonとしては、こうして広がりを見せるさまざまな市場に対して、チップのほか、ベアダイやモジュール、そしてソリューションといったさまざまな形態で半導体製品を提供している」(同)としており、今後も成長が見込まれる半導体市場において、高い成長率を維持することを目的に、「他社よりも多くの投資を行なうことで、成長を遂げてきた。今後もその方針は変わらない」と、継続して研究開発・設備投資を行なっていくことを強調する。
すでに同社は2018年5月、今後6年間で合計約16億ユーロを投じ、オーストリアのフィラッハにパワー半導体向け300mmウェハ対応工場を建設することを明らかにしており、2021年からの稼動を目指している。「すでにInfineonは独ドレスデンの300mmウェハ工場、マレーシア・クリムの200mm工場という2つのパワー半導体工場を有しているが、2021年以降も、パワー半導体市場は伸びることが見込まれており、その需要に対応し、さらなる事業基盤の強化、成長を目指していくためには、新たな工場を建設することが必要であった」と同氏は、建設を決定した背景を説明する。
また、フィラッハは通常のシリコンのみならず、ワイドバンドギャップ半導体であるSiC半導体の生産拠点でもある。SiC半導体は主にダイオードとMOSFETがあるが、「現状、我々のSiCは4インチ(100mm)での生産を終了させ、6インチ(150mm)の生産に移行しようとしている。6インチでの本格的な量産は2019年ころを見ている」(同)と、大口径化が順調に進んでいることを強調するほか、「SiCダイオードは先駆者の1社であり高い競争力を有しているが、MOSFETについては出遅れたところがあった。ただし、その分、トレンチMOSFETの開発に成功しており、性能などの面において、他社よりも高いものを提供できる体制が整ったことで、将来的にはダイオードと同じくらいのシェアは獲得できるようになると見ている」と、その技術力を背景に、強気の姿勢を見せており、今後数年間で数億ユーロ規模の投資を行い、他社の引き離しを狙うとする。
さらに、さらなる大口径化となる8インチ(200mm)については、「現状は6インチの高品質な立ち上げが最優先。生産設備自体は6/8インチのコンパチなので、使いまわせるが、コスト効率が良い形で8インチを活用できるようになるのは5年以上かかると見ている」と、現在の同社の状況を説明。さらなる次世代パワー半導体材料として期待される酸化ガリウム(Ga2O3)やダイヤモンドなどについては、大学と共同で研究を進める段階であり、まずは6インチの立ち上げに注力することが最重要課題となっているとした。
日本の顧客の細かな要望にも応える体制を構築
こうしたパワー半導体を活用する動きは、全世界的なものであり、日本も例外ではない。ただ、もとより重電や産業機器、自動車、設備といったメーカーが多い日本では、グローバルに比べてパワー半導体を含めた電源ソリューションなどに対する知識レベルが高く、それに対する要求の度合いも高いという。
「世界的なトレンドともいえるが、自社の差別化要因を実現するために、電力コントロールまわりもカスタマイズすることが要求される。特に日本はそうした傾向が強く、我々としても、日本のカスタマとともに成長を果たす、という方向性を掲げている」(同)とのことで、コントローラ、ゲートドライバ、インバータを1モジュール化し、かつソフトウェア制御によりカスタマが望む挙動を可能にするIPM「iMOTION」の研究開発機能を日本に設置。カスタマイズのニーズに迅速に対応できる体制の強化を図っているとする。
ちなみに、こうした日本地域向け戦略について、同社では「555Strateg(ゴーゴーゴーストラテジー)」という名称で呼んでいる。これは、カスタマを業種などで5つのグループに分ける、フォーカスするアプリケーションを5つに絞る、日本の文化に合わせた5つのやるべき取り組みを本社とシェアする、といったもので、元々はFive Five Five Strategyと呼んでいたそうだが、Fiveが日本語で「ご」と読むことにちなんで、ゴーゴーゴーストラテジーと呼ばれるようになったのだという。
すでに、ホームアプライアンスや再生エネルギー、鉄道といった分野でデザインウインおよび、それに準じる状態となってきた案件が複数でてきており、Infineonとしても、積極的に同氏のようなエグゼクティブクラスの要人を訪日させる形でカスタマを訪問、カスタマとのパートナーシップの強化などを図っていくことで、「外資系であっても一緒にビジネスを推進できるパートナーである」と信じてもらえる関係づくりを推進していくことで、日本での存在感をこれまで以上に高めていきたいとしていた。