筑波大学と東京工業大学(東工大)は6月29日、任意の速度で泳いでいる人(泳者)に作用する抵抗力を推定できる方法を新たに開発。これを用いてクロールにおけるキックの動作は、低速域では推進力になるが、速度が増すにつれ抵抗となる可能性が示されたと発表した。
同成果は、筑波大学体育系の高木英樹 教授、同 成田健造 大学院生、東工大 工学院 システム制御系の中島求 教授らの研究グループによるもの。詳細は、バイオメカニクス分野の学術誌「Journal of Biomechanics」に掲載された。
これまでも速く泳ぐための動作解析を目指した研究は行なわれてきたが、その複雑な動きを連続させた形での動的抵抗を計測できる方法は確立されていなかった。今回、研究グループは、新たに、けのび姿勢時の静的抵抗、プル泳時の動的抵抗に加え、上肢と下肢の両方を使って泳いだ時の動的抵抗を同一システムで計測できる測定システムを開発。キック動作がどの程度の推進力となっているのかの検討を行ったという。
その結果、1.1m/s程度の低速域では抵抗にならず推進力として貢献しているが、1.3m/sの中速域あたりから抵抗となり始め、さらに泳速度を高めるとかなりの抵抗になる可能性が示唆されたとする。
すでに研究グループは、先行研究として、上肢と下肢の両方を使ったクロールの自己推進時抵抗が、従来定説(泳速度の2乗に比例)ではなく、泳速度の3乗に比例して増大することを報告しているが、今回の結果は、泳ぐ速度を上げるためには、抵抗が増大するとしてもキックを打つ必要があり、それが泳速度の3乗に比例して抵抗が増加するという現象と関連している可能性があるとしている。
なお今回の結果を受けて、研究グループでは、ストローク(腕のかき)の頻度を上げて推進力を増しつつ、いかにキック動作の抵抗を減らしていくかが速く泳ぐための鍵となることが示唆されたとコメントしているほか、今後は、新たに開発した測定法を活用することで、推進力の向上をはかりつつもキック動作による抵抗力低減の実現や、長距離種目でのキック動作の効率的な利用によるパフォーマンスの向上に関する方策を提案できる研究を推進していきたいとしている。