早稲田大学(早大)は、共同研究グループが、国際宇宙ステーション(ISS)・「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームに搭載された宇宙線電子望遠鏡(CALET:高エネルギー電子・ガンマ線観測装置)を用いて、これまで困難であったテラ電子ボルト領域において、4.8テラ電子ボルトまでの高精度エネルギースペクトルの測定に成功したことを発表した。

この成果は早大理工学術院教授でCALET代表研究者の鳥居祥二氏、同主任研究員の浅岡陽一氏と、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)および国内他機関、イタリア、米国の国際共同研究グループによるもので、6月25日、国際学術雑誌「Physical Review Letters」オンライン版に掲載され、6月29日(現地時間)に紙面掲載される。

  • 左図はCALETの側面から見た概念図と1テラ電子ボルトの電子によるシャワー粒子のシミュレーション例。右図は実際に観測された3テラ電子ボルトの電子の観測例

    左図はCALETの側面から見た概念図と1テラ電子ボルトの電子によるシャワー粒子のシミュレーション例。右図は実際に観測された3テラ電子ボルトの電子の観測例(X-Z面とY-Z面から表示)(出所:早大ニュースリリース)

CALETは宇宙線の観測のうち、特に重要な全電子(電子+陽電子)スペクトルの観測を目的として、2015年8月に国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」に設置され、日本の宇宙線観測としては初めての本格的な宇宙実験を長期にわたって行っている。

高エネルギーの宇宙線がどこから来て、どのように加速されたのかは充分にはわかっておらず、宇宙に残された未解明の問題のひとつとされている。高エネルギーの宇宙線のうち、電子は最も重要なもののひとつで、これまで1テラ電子ボルトを超えるエネルギーを持つ電子を計測することが困難であった。しかし、従来の観測装置より高度な機能を有するCALETの検出装置「カロリメータ」では、その特徴を活用し、かつ国際宇宙ステーション搭載によって可能になる長期観測によって、テラ電子ボルト領域にわたる高エネルギー電子スペクトルの精密測定を可能としている。

今回の測定では、これまで精密な結果を得ることが困難であった、測定器の側面を通過するイベントに対する新たなデータ解析手法の開発等により、その時の約2倍の統計量データを取得し、観測領域の拡張を実現した。

研究グループは、今後、5年間以上の観測データを蓄積し解析することで、今回の結果の約3倍以上の統計量を達成できるとしている。検出器のより深い理解による系統誤差の削減とあわせて、観測エネルギー範囲を拡大し、20テラ電子ボルトまでの全電子スペクトルをかつてない精度で測定することが目的である。これらの電子スペクトルの測定により、近傍加速源を発見し、暗黒物質の正体を解明していくことが大きく期待されると説明している。