コネクテッドヘルスアプリケーションとInternet of Medical Things(IoMT)の本格化が始まっています。この新たな分野は大きな可能性を秘めていると言えます。eHealthの経済的利益は、既存のインフラであるインターネットの活用によって実現することは、容易にわかります。それによって患者に関する情報を収集するだけでなく、最終的には、家庭を含め、必要な場所で必要な時にヘルスケアが提供されるようになるでしょう。

健康管理のためのウェアラブルデバイスから、慢性疾患や持続性疾患をモニタリングして管理する機器に至るまで、健康分野のテクノロジーは進化し続けています。重要なことは、こうした進化が、テクノロジーをうまく組み合わせるというような単純なものではないことです。何らかの形の医療を提供するデバイスには、当然ながら、さまざまな条件や政府規制の遵守が求められるからです。

すでに医療業界に製品を提供している何千もの企業にとって、このような課題への対応は今に始まったことではありませんが、新たに参入を目指すテクノロジー企業にとっては、必ずしも容易なものではありません。強固なパートナーシップが鍵になる余地があるとはいえ、競合も激しいものになります。IoMTに関わりたいと考える企業にとって、本物の付加価値を持ったイノベーターは魅力的な存在になり得ます。

フィットネスから医療へ

今日のウェアラブルテクノロジーは、睡眠を含む各種の活動形態を追跡するデバイスである、フィットネストラッカーとほぼ同義になっています。このようなデバイスは、最初は運動の記録を取りたいと考える活動的な人々の間で普及しましたが、スマートウォッチの出現によって、同様の機能が、広範なユーザーを対象としたデバイスに組み込まれるようになりました。

ランニングや水泳の記録を取る機能は誰にでもアピールとなるものではありませんが、1日の歩数や階段の数をモニタリングする機能には、一般の人の運動量を増やす効果が期待されており、実際に効果を上げています。

このテクノロジーは患者の活動のモニタリングにも応用できるものですが、単純なフィットネストラッカーを超える精度と信頼性が求められることから、実際の活用は本格化していません。そのような精度がなければ、デバイスは関係する政府機関の認可を得られず、保険会社に認知されることもありません。これはIoMTの実用化にとって、少なくとも初期段階では、大きな問題になります。

しかし課題があるとはいえ、フィットネストラッカーから医療用のモニタリングデバイスへの移行は、不可避だと言えます。一方で、ウェアラブルな医療機器という大きな波は、別のニーズから発展し、異なる結果が生まれることも考えられます。現在のほとんどのウェアラブル機器に共通する点は、スマートフォンで実行される付属アプリケーションに依存していることです。そのため、データと医療内容の連動性に不安が残り、本格的な医療機器には採用されない可能性があります。代わりに、ウェアラブルデバイスをより堅牢なホームゲートウェイにリンクさせ、屋外でのモニタリング用に、専用のセルラーモデムによるバックホール接続がなされることも予想されます(以下を参照)。

これに続いて、同じデバイスが家庭だけでなく病院でも利用され、病院内の大型の高価な機器を補完し、さらにはそれに代わる存在になる局面も考えられます。それが可能になれば、物理的な障壁のないシームレスな医療が実現し、患者がどこにいても医療専門家の目が行き届くようになります。

姿を変える医療

体の状態に関する情報を頻繁に共有できるようになれば、ウェアラブルデバイスの医療上のメリットは高まります。それには、データを捕捉し、常時中継できなければなりません。医院に限らず、さまざまな状態や状況で呼吸、心拍数、血中酸素濃度を観察を観察できれば、全身の状態についてそれだけ多くの情報が得られます。

これは、たとえばフィットネストラッカーのデータの共有などから始まり、徐々に実現されていく見込みです認定されるデバイスが増えれば、データの妥当性も向上し、常時のモニタリングを必要とする患者が、少なくとも病初ではデバイスを装着するようになるはずです。新たに投入される製品であり、コスト面では最適化されていない可能性が高いため、その点は保険でのカバーが必要になります。しかし導入される機器が増えてくれば必然的に価格も低下し、さらに利用しやすくなります。

現時点では、予防的なモニタリングを目的として、医療グレードのウェアラブルデバイスの導入数増大が期待できます。これには、長期的な病状や慢性疾患の患者、治療担当者が含まれます。これまでは定期的かつ精密な分析によって健康管理を行ってきたところに、予防が導入されることになります。

その過程で、医療グレードのウェアラブルデバイスが例外から標準に変わり、IoMTの利点を誰もが得ることになる転換点が生じます。

共通のプラットフォーム

医療グレードのデバイスが成功するには、何らかの大きなイノベーションが鍵になりますが、各種のデバイスにはシステムレベルの類似性が多いことも間違いありません。これらのデバイスはウェアラブルであるため、充電式バッテリーを利用し、またポータブルであるためにワイヤレス接続が必要になります。また精度を確保するために高度な位置データ機能も必要です。

最新規格のLTE Cat-M1やNB-IoTを利用したLTEモジュールなど、これらすべての機能を実現するソリューションがすでに提供されています。このようなテクノロジーが3GPP規格を構成し、IoTに見られるような低帯域幅アプリケーション向けに、信頼性に優れた低コストの長距離接続を提供しています。IoMTデバイスでは、セルラーネットワークへのアクセス機能が不可欠になります。そうしたモデムを搭載したデバイスによって、スマートフォンがなくてもLTEネットワークに接続できるようになります。

同様に、Global Navigation Satellite System(GNSS)モジュールによってさらに正確な位置情報が得られ、相対位置と軸の傾きは、9軸で動作する各種のマイクロマシンシステム(MEMS)センサで測定できます。

ウェアラブルデバイスでは、MEMSモーションセンサや温度センサなど、さまざまな標準的なセンサが利用されます。他にも、光心拍数モニタリング、圧力センサ、およびその他の生物医学センサインタフェースなど、ウェアラブルアプリケーションを対象としたセンサが提供されています。

まとめ

医療のオンライン化が進むとともに、医療専門家には、IoMTから生み出される膨大なデータを分析することが求められるようになります。このことだけでも、大きな収益に結びつく新たなビジネス分野ができていることがわかります。

eHealth分野は、医療データの初回通過分析を優れたコスト効果で実施するために、人工知能を最も早期に導入する業界となる可能性があります。AIを利用してデータを分析することで、機械学習を通じてアルゴリズムも改良され、必要なときにアクセスできるエキスパートシステムが構築されます。

こうした将来的なビジョンを不安に感じるか、積極的に導入するかは人それぞれです。最終的には、高齢化が進む社会では、テクノロジーを導入した管理を社会が受け入れることは不可欠だと思われます。

著者プロフィール

Rudy Ramos(ルディ・ラモス)
マウザー・エレクトロニクス
プロジェクトマネージャー(テクニカル・コンテンツ・マーケティング・チーム)

Keller Graduate School of ManagementでMBAを取得しています。また、専門的な技術分野と管理分野で30年を超える経験を持っており、これまでに、半導体、マーケティング、製造、防衛などさまざまな業界で、複雑で緊急を要するプロジェクトやプログラムを管理してきました。

マウザー勤務以前は、National SemiconductorやTexas Instrumentsに勤務したほか、シルクスクリーニングビジネスの立ち上げも行なっています。