コーネル大学などの研究チームは、酸化ガリウム半導体を用いた電界効果トランジスタにおいて降伏電圧1000V超という性能を実現したと発表した。酸化ガリウム(Ga2O3)は、窒化ガリウム(GaN)やシリコンカーバイド(SiC)を上回る絶縁破壊電界強度をもつとされ、次世代の高耐圧パワーデバイスとして期待されている。研究論文は「IEEE Electron Device Letters」に掲載された。
日本からは、酸化ガリウムのエピタキシャル成長基板の開発・製造を行うノベルクリスタルテクノロジー、法政大学の中村徹教授らのグループが参加している。
酸化ガリウムのバンドギャップは4.9eV程度あり、ワイドギャップ半導体であるGaNやSiCと比べても大きな値となっている。このため大きな絶縁破壊電界強度を実現できると考えられており、高耐圧条件で使用されるパワーデバイス用途での実用化が進められている。
今回の研究では、酸化ガリウムを用いて金属-絶縁体-半導体電界効果トランジスタ(MISFET:metal-insulator-semiconductor field-effect transistor)を作製し、エンハンスメントモード(電圧ゼロのときにデバイスがオフ状態になる動作モード)での性能を検証した。
デバイス作製では、水素ガス中に材料ガスを流すハイドライド気相成長法(HVPE:hydride vapor phase epitaxy)を用いて、単結晶酸化ガリウム基板上に膜厚10μmの酸化ガリウム層を形成した。この酸化ガリウム層はシリコンがドーピングされたn型半導体となっており、上部に幅330nm、高さ795nmのチャネル構造が形成されている。チャネル上部にソース電極、基板下部にドレイン電極を配し、基板方向に対して垂直に電流が流れる縦型トランジスタ構造とした。
論文によると、このデバイスは降伏電圧1057Vという高い値を達成したとしている。これはn型酸化ガリウム層の電子濃度が1016cm-3程度と低いことによるという。なお、パワーデバイスの高耐圧化技術としてよく使われるフィールドプレートは利用されていない。
エンハンスメントモードでの動作時のデバイス性能について、しきい値電圧1.2~2.2V程度、電流オンオフ比108オーダー、オン抵抗13~18mΩ・cm2程度、出力電流密度300A/cm2といった値が報告されている。
研究チームは今回の成果について、酸化ガリウムを用いたエンハンスメントモードでの高耐圧縦型トランジスタとしては過去にない性能であり、酸化ガリウム系パワーデバイスの実現に向けたマイルストーンであると強調している。