シーメンスは6月5日(米国時間)、同社のミッドマーケット(中小企業)向け3D CAD設計ソリューション「Solid Edge 2019」を発表。それに伴い、同社日本法人のシーメンスPLMソフトウェアは6月18日に、都内でその特徴などの説明を行なった。
ECADにも対応した最新版のSolid Edge
Solid Edgeの最新版となる2019の最大の特長の1つは、名称が変更されたこと。同製品は毎年1回、メジャーアップデートがなされてきたが、これまでは「Solid Edge ST」という名称で、STの後ろにナンバリングが施されてきた(2017年版はST10)。しかし、ST(シンクロナス・テクノロジー)という名称も10周年を迎え、一般化したということで、ブランディング戦略を変更したという。
また、同社は現在、2017年3月に買収を完了したMentor Graphicsの電気系ツールの自社ツールへの統合を積極的に進めてきており、Solid Edge 2019にも電気CAD(ECAD)である「Solid Edge Wiring Design」と「Solid Edge Harness Design」がアドオンとして提供された。これらの技術ベースは、Mentorの電装設計ソフトウェア「Capital」とのことで、これにより、システムにおける配線設計を、実際に実装可能なハーネスやケーブルの落とし込んで、工程ごとにどの程度の人件費がかかるのか、どれくらいの時間がかかるのか、といった単なる機能実装の統廃合のみならず、算出することが可能となり、同社としても、メカエレ協調設計を促進することが可能になることを強調する。
このほか、2018年秋ごろには、「Solid Edge PCB Design」と呼ぶPCB設計ツールも統合される予定。PCB(プリント基板)設計を3Dに取り込むことを可能とするツールで、これによりシステムの開発におけるメカエレ連携がスムーズに進められるようになる。
3D CADのみならず、ポートフォリオを拡充したSolid Edge
Solid Edge 2019はECADMを取り込んだのみならず、それ以外の機能拡充も図られている。例えば解析分野としては、Solid Edge中で有限要素解析を可能とする「SolidEdgeSimulation」、熱流体解析を可能とする「FloEFDfor Solid Edge」といったものに対応。SolidEdgeSimulationは、過渡熱伝導解析に対応しており、プリント基板上にはんだ付けされたチップが、何秒後に何度まで発熱するか、といった時間を加味した解析が簡単に行なえるようになる。一方のFloEFD for Solid Edgeは、液面が空気以外と接していないフリーサーフェスの状態のシミュレーション解析などを手軽に行なうことが可能となるという。
このほか、製造分野でも機能拡充が進められている。現在、製造業を中心にアディティブマニュファクチャリングに注目が集まっているが、同社もそうした動きを重視。HPと技術連携を進めることで、HPの3Dプリンタで出力される最終形をシミュレーションしたり、といったことも可能になるほか、CADモデルをそのまま3D PDFフォーマットを活用することで、作業指示書やマニュアルなどに適用することが可能。これにより、設計変更がなされた際にも、自動的に連携してモデルの変更がなされることとなり、よくある最終仕様となる前の状態でマニュアルを作成して、齟齬が生まれる、といったことを防ぐことなどが可能となる。
加えて、Teamcenterへのインテグレーションとしてアクティブ・ワークスペースの統合などが実施された。これにより、Siemens Geolusによるこういった形、といった形状検索などが可能となり、使い勝手の向上につながるとする。
中軸となる機械設計機能も拡充
さまざまな機能拡充が図られたSolid Edge 2019だが、基本的なメカニカルCAD(MCAD)も強化が図られている。例えば、トポロジの最適化(ジェネレーティブデザイン)。ST10から同機能は追加されていたが、新たに3Dプリンタだけではなく、従来からの加工方法にも対応する形でのジェネレーティブデザインとして、型の抜き方向を把握したり、といったことが可能になったという。また、3Dスキャナのデータを、3D CADで自動的に使えるようにしようというリバースエンジニアリング機能も、ST10から搭載されていたが、これの処理パフォーマンスが従来比で5倍高速化され、より実用的になったという。さらに、そうした生み出されたデータ(メッシュモデル/ファセットデータ)を、3D CAD上で自由にパーツ単位などで動かしたりといった加工を可能とする独自の「コンバージェント モデリング」や、アセンブリの自動単純化機能による、表面データだけを作成し、外部サプライヤなどへ確認のために提供したり、Solid Edge上で板金を1回行なうごとにコストがいくらかかる、といった計算(板金コスト自体は事前に入力しておく必要がある)なども可能になったとする。
このほか、2018年秋から冬にかけて、プラントなどの配管図を作ったり、設計データと連携させたりすることを可能とする「Solid Edge P&ID Design」ならびに「Solid Edge Piping Design」の提供も予定しているという。
正式版の提供が始まったSolid Edge Portal
新たなブランディングの第1弾となるSolid Edge 2019は、そのスタートとしては十分なほどの機能拡充を施した製品となったが、加えて、同社はクラウド上でさまざまなユーザーとデータ共有を可能とする無償コラボレーションツール「Solid Edge Portal」も正式リリースしている。
これは、Solid Edgeのユーザーではなくても、ユーザー登録をすることで、無料で5GBのデータ領域を利用することができるクラウドストレージサービス。Solid EdgeのCADデータの複数ユーザーでの共有はもちろん、マークアップ、断面表示、アセンブリの分解表示といったことも可能で、一般的なCADフォーマットのビューイングもできるといった優れもので、ST10の発表の際にその存在がアナウンスされ、2018年3月にベータ版、2018年5月に正式版の提供がそれぞれスタートしている。
ここまでSolid Edgeの機能が拡充されると、自社のハイエンド3D CAD「NX」との境界があいまいになってくるが、その住み分けについて同社では、「NXはエンタープライズ向け。IT部門に多くの人が在籍し、データベースやプログラム、ネットワークなどについて、社内で対応できる企業に向いている。管理を自社で行なう、という企業向け。一方のSolid Edgeは、利用されるシーンをある程度想定し、テンプレート化した状態で活用してもらうことを前提にしたもの。主に中小企業向けだが、大企業でも、そうした使い方をする、という前提で活用してもらっている場合もある」としており、ユーザーの利用状況に応じて選択することを薦めているとする。
なお、Solid Edge 2019は日本語版もすでに提供が開始されており、月額11250円(年間契約の場合)の基本パッケージ、一般的な基本機能パッケージ、上位パッケージ、最上位パッケージのサブスクリプション(月額)契約のほか、Solid Edge Wiring Designなどの利用も可能となる永久ライセンス版が用意されており、用途やニーズに応じて使い分けることが可能だ。また、45日の期間限定ながら、完全バージョンの無料評価版も同社Webサイトからダウンロードできるため、どういった機能をどの程度使いそうか、ということを前もって試すこともできるようになっているという。