奈良先端科学技術大学院大学(奈良先端大)と科学技術振興機構(JST)は、研究グループが、画像処理装置の高速ビジョンと近赤外光を用いることにより、ユーザーがひとりで眼底網膜像を撮影できる、新しい小型眼底カメラシステムの開発に成功したことを発表した。
この成果は、奈良先端大先端科学技術研究科 物質創成科学領域の太田淳教授らの研究グループと、東京大学大学院情報理工学系研究科石川正俊教授らの研究グループとの共同によるもので、6月21日にハワイで開催される国際会議「2018 Symposia on VLSI Technology and Circuits」にて発表される。
眼底網膜は身体の外から血管の様子を詳細に観察できる唯一の場所であり、毛細血管をも観察することで、眼の様々な疾患だけでなく、高血圧、動脈硬化、糖尿病などの生活習慣病の状態を観察できる。
眼底網膜像を得るためには、眼科医などの専門家の操作のもと、瞳孔と眼底の光軸を正確に合わせ、暗い眼球内を強いフラッシュ光で隈なく照らすなどして撮像する必要がある。その際、眼球が高速に細かく動くことやまぶしさのため、患者が自分で撮像することは困難であった。
今回、研究グループが開発したシステムでは、高速微動する眼球を高速ビジョンシステムによりトラッキングし、さらに、まぶしくない近赤外光を用いることで眼底に十分な強度の光を到達させることができるため、眼に負担をかけることなく眼底像を得ることができる。
高速トラッキング技術は、同プロジェクトの分担グループである東北大学大学院情報科学研究科鏡慎吾准教授が開発したシステムが基になっている。また、近赤外光照明のため得られる画像は白黒であるが、ナノルクスの開発した3波長近赤外光からカラー画像を再現する技術を用いることで、近赤外光でもカラーの眼底網膜像を得ることができる。
眼底網膜像を自宅で気軽にひとりで撮影できれば、日々の生活習慣病の観察に用いることができ、パ ーソナルヘルスケアへの応用が期待できる。また、眼底網膜像をインターネット経由で医師に送るこ とで遠隔診断も可能となるほか、小型軽量な特徴を生かし、眼病が多いと言われている開発途上国でのその場診断への展開も可能となる。
同システムによる装置は、現時点では未承認医療機器のため販売・授与できないが、今後は自宅で気軽に眼病や生活習慣病をチェックするヘルスケア機器として、実用化を目指すとしている。
なお、今回は高速ビジョンシステムと近赤外光技術を個別に実証しているが、今後ふたつの技術を融合することで、一層鮮明な眼底網膜像をより簡単に取得できることを目指すとともに、小型化を進めスマートフォンのアタッチメントとして実現することを計画しているという。また、カラー画像の色再現性についても検討を進めていくということだ。これらの技術展開により、誰でも容易に使えるこれまでにないパーソナルヘルスケア機器の実現を目指すとしている。