「30分枠で同じ内容の15分アニメを2回繰り返す」「当初発表されていた声優が出てこない」「次回予告が別の作品」……。

原作マンガと同様の傍若無人な作風から、正確に作品を形容できる言葉がなかなか見つからず、結果として“クソアニメ”という誉れ高い称号を手に入れたアニメ『ポプテピピック』。動画再生サイト「ニコニコ動画」では、史上最速で100万再生を突破するという驚異的なレコードを叩き出した。

同作のアニメーション制作を担当したのは、鬼才映像集団「神風動画」だ。『ポプテピピック』の次には、2018年6月15日に劇場公開された『ニンジャバットマン』を手がけている。

  • 『ポプテピピック』(c) 大川ぶくぶ/竹書房・キングレコード

    『ポプテピピック』(c) 大川ぶくぶ/竹書房・キングレコード

  • 『ニンジャバットマン』Batman and all related characters and elements are trademarks of and (c) DC Comics. (c) Warner Bros. Japan LLC

    『ニンジャバットマン』Batman and all related characters and elements are trademarks of and (c) DC Comics. (c) Warner Bros. Japan LLC

しかし、本稿で触れたいのは『ポプテピピック』や『ニンジャバットマン』ではない。神風動画が2018年4月3日にリリースした、スマホの縦と横を切り替えることで再生内容を変えられる動画メディア「タテヨコ」についてである。

アニメーション制作を中心に活動している同社が、なぜ新しい動画メディアを生み出したのか。神風動画 代表取締役/演出の水崎淳平氏に開発の意図を伺った。

はじまりは『黒猫のウィズ』や『星のドラゴンクエスト』などのスマホゲーム

「5年くらい前からでしょうか。スマホ向けのソーシャルゲームが普及し始めたことで、ゲーム冒頭に流れるムービーを作ってほしいというお仕事をいただく機会が増えました。縦向きの状態でプレイするゲームでは、当然オープニングムービーも縦で制作します。当時は、ソーシャルゲームのオープニングムービーはあまり一般的でなく、我々もスマホゲーム『黒猫のウィズ』で初めて縦位置のアニメーション制作に携わりました。その後、『白猫プロジェクト』や『星のドラゴンクエスト』などのゲームで、徐々に縦アニメーションの制作事例が増えていきました」

水崎氏はタテヨコの起源を振り返る。今まで「動画」といえばテレビやPCで見るような「横位置」が定番だったが、スマホの普及によって「縦位置」のフォーマットが現れた。そのため、新しいカタチの動画制作が求められるようになったのだ。

  • 神風動画 代表取締役/演出の水崎淳平氏

    神風動画 代表取締役/演出の水崎淳平氏

「とはいえ、ゲームショウなどの展示会や公式サイトでムービーを公開する場合、縦のままだと使い勝手が悪いですよね。そこで、コンテの切り方が異なる横位置の映像も用意したほうがいいのではないか、と提案したのがはじまりです」

スマホが普及したからといって、PCの動画を用意しなくていいわけではない。オープニングムービーと同じ内容の映像を、テレビCMで使うこともあるだろう。メディアによって縦と横の映像を使い分けできるようにと、水崎氏は自ら2パターンの動画制作を提案した。

また、一度縦の映像を作ってから同じ映像の横バージョンを制作する場合、背景美術などを違和感のないように描き足す必要がある。後々、必要になるのであれば、最初から正方形のコンテを用意して、縦と横どちらでも切り出せるようにしておくほうが効率的だと水崎氏は気づいたのだ。

  • 縦バージョンの『星のドラゴンクエスト』オープニングムービー。(c) 2015-2018 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.

    縦バージョンの『星のドラゴンクエスト』オープニングムービー。
    copyright(c) 2015-2018 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.

  • 横バージョンの『星のドラゴンクエスト』オープニングムービー。(c) 2015-2018 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.

    横バージョンの『星のドラゴンクエスト』オープニングムービー。
    copyright(c) 2015-2018 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.

「ただ、縦と横の動画を別々のメディアで使うことに対して、もったいないと思うようになりました」

スマホであれば、縦と横どちらも楽しめるのではないか――。

そう考えた水崎氏は、スマホの向きを変えることで映像のレイアウトを切り替えられる「タテヨコ」動画の試作品を社内で開発。出来上がった試作品を手にした時、「これはおもしろい」と手応えを感じたという。さらに、試行錯誤を繰り返しているうちに、水崎氏は「ただ縦と横の映像を切り替えて流すだけである必要はない」ことに気づく。

「カメラの“寄り”や“引き”、異なる2つのシーン、アニメ本編と副音声など、バリエーションを出して付加価値をつければ、もっとおもしろくなるだろうと思いました。ただのマルチチャンネルであればDVDなどでも実現できますが、リモコンの操作をせずに、スマホを傾けるだけで切り替えられるのがポイントです」

スマホの縦と横を変えることで、アーティストのライブや舞台公演では「ステージ全体」と「自分の推しメンバー」を切り替え、野球中継では「グラウンドの俯瞰」と「打席の映像」を切り替えて視聴できる。ビジネスにおいては自社サービス導入の「ビフォー」と「アフター」を比較できるようにすることで、よりわかりやすくメリットを訴求できるかもしれない。

「特に、“推し”の切り替えは、ファンにとってうれしい機能なのではないでしょうか。また、我々の制作したアニメ『ポプテピピック』も、(30分枠で15分映像を繰り返して放送するため)声優が違うだけのほとんど同じ映像を2回見なくちゃいけないのですが、タテヨコであれば切り替えながら1回で見られます」

作った本人が「見なくちゃいけない」と言っていることに、引っかかるものはあったが、とにかく、スマホ1台で2つの映像を切り替えられるタテヨコは、アイデア次第で幅広い用途に活用できるのだ。

そうして、完成したタテヨコ動画。2018年4月4日から3日間開催された「コンテンツ東京2018」において、タテヨコの性能を伝えるデモ機「巨大クソみくじ」とともにその姿が披露された。

  • 神風動画 代表取締役/演出の水崎淳平氏

    コンテンツ東京2018の反響はよかったと話す水崎氏。「覚えてろリードエグジビションジャパン……。地べたを這いドロ水すすってでもコンテンツ マーケティング EXPOに戻ってきてやる……」ということにはならなそうだ

  • タテヨコの性能を伝えるデモ機「巨大クソみくじ」

    コンテンツ東京2018で展示された巨大クソみくじ。タテヨコのフォーマットと同様に、大きなディスプレイを傾けると表示内容が切り替わる