「科学技術イノベーションの基盤的な力の更なる強化に向けて」と題した「平成30年版科学技術白書」を文部科学省がまとめ、政府が12日の閣議で決定した。白書は日本の科学技術力の国際的地位の低下傾向に危機感をにじませ、若手研究者の育成や研究開発投資の確保など、イノベーションを支える基盤力を強化することが必要と強調した。また特集で国連持続可能な開発目標(SDGs)を取り上げ、SDGsの社会実装に向けた関係機関の連携や協力を求めている。
平成30年版科学技術白書は特集と第1部第2部による3部構成。第1部はイノベーションを支える基盤力の現状と課題について記述した。この中で発表論文数や、他の研究に多く引用される質の高い論文数について国際順位変化を比較。03~05年と13~15年では、論文数全体で2位から4位に、質の高い論文を示す指数では4位から9位にそれぞれ低下し、いずれも2位の中国に大きく差を付けられた実態を指摘した。
また、諸外国と比べて特許出願数は高い水準を維持し、「大学発ベンチャー」も成長しているとしながらも、中国と比べて政府研究開発投資額は停滞傾向にある、とした。さらに、若手研究者を取り巻く現状については、修士課程から博士課程に進学する人が年々減少している傾向を明示し、「若年人口の大幅な減少傾向により次代を担う研究者の確保がさらに困難になる可能性がある」と危機感を表明している。
このほか白書は、全研究者に占める女性研究者や優れた外国人研究者の低い割合や産・学・官各セクター間の人材流動性の低さなどの改善も課題とした。大学の研究体制も取り上げ、大学教員の研究時間の減少傾向を問題視して、「大学内人事の硬直化・高齢化や研究者の研究時間確保などに対応する大学の戦略的な経営力が不足している」と手厳しく指摘している。
こうした看過できない現状や課題に対して白書は、政府には若手研究者が独創的・挑戦的研究を進めることができる環境の整備などを、産業界には博士課程出身者を積極的に採用、活用することなどを求めている。
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