ソフトウェア開発者から絶対的な支援を得るGitHub。しかし、企業での利用というシーンでは知的財産の管理という点でGitHub.comのサービスはビジネスモデルと合わないケースもある。そうした場合にはオンプレミスでデプロイできる「GitHub Enterprise」だ。「GitHub Satellite Tokyo 2018」の2日目は企業向けのセッションが並ぶ。CTOとジャパンカントリーマネージャは双方の需要に対応できるGitHub.comとGitHub Enterpriseの強みを取り上げた。
IT人材不足79万人 - GitHubはツールで乗り越える
GitHubは従業員の65%がリモートで業務に従事している。GitHubのサービスそのものがリモートでの業務と相性がよいということもあるし、創業当時の状況を踏まえても、リモート業務で開発を進めることには同社にとって利点が多い。
そうしたGitHubも3年前から米国以外の国へ進出を開始した。その最初に選ばれた国が日本だ。GitHub.comのサービスはグローバルに展開されているため、GitHub.comだけを考えるならローカルにオフィスを持つ狙いはそれほど高くない。サポート窓口を設けるということに意味はあるが、本格展開とはならないだろう。GitHubが海外進出を本格化させた狙いのひとつは、オンプレミスという特徴を持つGitHub Enterpriseの展開にあるものとみられる。
GitHubカントリーマネージャジャパン公家尊裕氏はIDC Japanの次の調査結果を引き合いに出し、今後IT分野が大きく成長する可能性が高いことを指摘。
- IoT 2017年 6兆2000億円→2022年 12兆5000億円
- 認識技術/AI 2017年 274億円→2022年 2947億円
しかし、続けて経済産業省の予測を引き合いに出し、2030年にはIT人材の需要に対して不足が79万に達するという点にも言及した。これは毎年4万人、5万人という規模でIT人材が不足していくことを示している。
こうしたIT人材不足に対してこれまでは従業員の業務時間を延ばすといった対応を取ってきたが、すでに限界に達していることに加え、働き方改革を進める現在の潮流にも合わないと説明した。GitHubは、こうした状況に対して「ソフトウェア開発効率を高めるツール」を提供することでIT人材不足に対応していくと意気込む。
日本における企業ユーザーの95%がGitHub Enterpriseを利用
GitHubが日本に進出してから3年経つが、現在では企業ユーザーの95%がGitHub Enterpriseを利用していると公家氏は説明する。この点もGitHubの海外事業進出の目的がGitHub Enterpriseの普及にあったことを示している。
日本の企業はオープンソースソフトウェアの活用は進めていても、その開発に積極的に参与したり、自社プロダクトをオープンソース化して事業を展開することは苦手としている。多くはクローズドな環境でソフトウェアを開発していくスタイルを取っている。GitHub Enterpriseはこうした日本企業の気質と相性がよい。
GitHub Senior Vice President of Technology、Jason Warner氏は「GitHubはデータ侵害を防ぎコンプライアンスに準拠しつつ、イノベーションを促進させること、こうしたことをこなしながらオープンソースコミュニティへのサポートを提供すること、そういったことを実現していく」と説明。GitHub.comとGitHub Enterpriseという2つのサービスを提供していることの強みを説明した。
GitHub.comとGitHub Enterpriseというビジネスモデルの強み
GitHub.comとGitHub Enterpriseという2つのサービスは、GitHubがソフトウェア開発という業界で見つけ出したビジネスモデルだ。
GitHub.comのように広く開かれたプラットフォームは、世界中の開発者の目を引き、ユーザの増加につながり、そして迅速な開発と機能追加を可能とする。無料で利用できるため、多くの開発者がすでにGitHub.comを利用できるという状況を生み出す。
一方、GitHub Enterpriseは企業ユースにおけるGitHubの導入を容易にする。クローズドな環境での導入を容易にし、さらにGitHub.comで開発された最新の機能が定期的にバックポートされるという状況も作り出している。企業ユースと開発者ニーズの双方を同時に満たしている。
GitHubが目指すものはすべてのソフトウェア開発者に、開発に専念できる環境を提供することにある。セキュリティやコンプライアンス遵守というのは、そうした目的を達成するために過程にすぎず、そこが目的にはなっていないところが大切だ。
組織が大きくなるとこういった部分で食い違いが発生し、手段が目的になってしまうことがあるが、GitHubは一貫して「開発者のため」という姿勢を貫いている。
GitHub Enterpriseの導入で開発者が嬉しい環境をつくる
ソフトウェア開発者の8割ほどがすでにGitHub.comのサービスを使ったことがあるとされており、実質的にGitHub.comはソフトウェア開発ホスティングサービスのデファクトスタンダードになっている。この機能を企業の業務でも使いたいと考えるのはソフトウェア開発者として当然の要望だ。
結局のところ、こうしたソフトウェアの導入は決裁権を持った立場の人やプロジェクト管理を行う上流工程の側が、その導入可否の決定権を持っていることが多い。
こうした技術を導入することで、どれほど開発がはかどるのか、こうした技術を導入するには現在の作業工程をどのように変更すればよいのか、そうした具体的な策も考えながら社内での説得工作を考えていくのも、自分の仕事の質を高めるために開発者に求められるものではないかと思う。
GitHub Satellite Tokyo 2018での発表は、そうした説得に利用できる資料の1つとなるだろう。実際にGitHub Enterpriseを利用して効果をあげている企業が存在することを示すことは、大きな説得材料になるものとみられる。