奈良先端科学技術大学院大学(奈良先端大)は、藻類の一種のEuglena gracilis(ミドリムシ)が光合成により細胞内に蓄積する「パラミロン」という多糖を蛍光標識し、短時間で定量できる技術を開発したことを発表した。

この成果は、奈良先端大生体プロセス工学研究室の細川陽一郎教授、前野貴則研究員と、理化学研究所(理研)の鵜澤尊規専任研究員ら、およびミドリムシに関する研究開発を行う企業・ユーグレナとの共同研究によるもので、5月29日に英国オープンアクセス科学誌「Scientific Reports」にインターネット掲載された。

ミドリムシが蓄積するパラミロンの検出例

ミドリムシが蓄積するパラミロンの検出例(出所:奈良先端大ニュースリリース※PDF)

近年、地球温暖化対策を産業に結びつけるため、環境に排出される二酸化炭素を使いて、植物や微生物が行う光合成により有用物質をつくる研究が進んでおり、なかでもミドリムシのつくる特徴的な多糖であるパラミロンは、健康食品や医薬、バイオプラスチック、バイオ燃料の原料として注目されている。

工場が排出する高濃度な二酸化炭素を処理できる細胞株の選別や培養条件の検討には、ひとつひとつの細胞に含まれるパラミロンの量を知る、いわば"ミドリムシのメタボ診断"が必要となるが、それを簡便に検出する試薬がなく細胞内の蓄積量を評価することは困難であった。

研究グループは、蛍光分子を含む様々なアミノ酸配列のペプチド混合物を遺伝子工学的に作り、その中からパラミロンに結合するペプチドを分離する事で、パラミロンを検出する蛍光ペプチド試薬を得ることに成功した。 この蛍光ペプチドは、普段はほとんど蛍光を発しないが、パラミロンと結合すると強く蛍光する工夫が施されている。

この蛍光ペプチド試薬は培養液中から細胞内に取り込まれないため、水中で熱を発生せずに加工できるフェムト秒パルスレーザーをミドリムシの近くに集光する事で、細胞内に蛍光ペプチドを送り込む事に成功した。また、水中を泳ぎ回るミドリムシを確実に処理するため、マンニトールという糖アルコールを高濃度で加えて一時的にミドリムシの動きを止める方法を開発した。これにより、ミドリムシに含まれるパラミロン量を個別診断し、それぞれの個性を見分けることが可能となった。

今回の研究成果で用いた方法論は、パラミロン以外にもさまざまな藻類の有用物質に展開できるため、藻類の基礎研究から地球温暖化対策としての藻類利用までを幅広く加速する有望な技術になると期待されるとしている。

  • 蛍光ペプチド試薬開発の概要(出所:奈良先端大ニュースリリース※PDF)

    蛍光ペプチド試薬開発の概要(出所:奈良先端大ニュースリリース※PDF)