オーガンテクノロジーズと理化学研究所(以下、理研)は、再生医療分野である「毛包器官再生による脱毛症の治療」に向けた臨床研究の前段階である非臨床試験を開始すると発表した。7月より非臨床試験用再生毛包器官原基の製造を開始し、2018年中には同試験を終了するという。

  • 再生毛包原基の移植により毛幹(毛)が再生されたヌードマウス(出所:オーガンテクノロジーズニュースリリース)

    再生毛包原基の移植により毛幹(毛)が再生されたヌードマウス(出所:オーガンテクノロジーズニュースリリース)

  • 再生毛包器官原基の開発の進め方(出所:オーガンテクノロジーズニュースリリース)

    再生毛包器官原基の開発の進め方(出所:オーガンテクノロジーズニュースリリース)

脱毛症や薄毛の治療薬では一般に育毛塗布剤が用いられており、男性型脱毛症(AGA)の治療としては外用剤や内服薬などが用いられているが、いずれも投与を中止すると効果は消失するため持続的な投与が必要となっている。患者自身の後頭部毛包を脱毛症部位へ移植する自家単毛包植毛術も行われているが、自家毛包の再移植のため、毛髪の総数が増えず、採取する毛包の数にも限界があるなど課題がある。

理研生命機能科学研究センター器官誘導研究チームは、2007年に器官のもととなる器官原基を再生する細胞操作技術を開発し、生体内で歯や毛包、唾液腺、涙腺の機能的な再生が可能であることを実証した。毛包は、毛の生え替わり(毛周期)として器官再生を繰り返すことから、組織内に器官誘導能を有する幹細胞が存在すると考えられており、ヒトへの応用可能性が高いとされ、研究が進められていた。その後、成体マウスの毛包器官から毛包原基を再生し、ヌードマウスに移植すると、再生毛包へと発生し、再生毛包原基の移植密度に応じて毛幹(毛)が再生されることが実証された。

これらのことから脱毛症治療への応用可能性が示されたが、マウスをヒトに応用するには、生体外の培養により毛包再生能力が消失することや、手作業で再生毛包器官原基を製造するため安定して大量製造できないといった課題があった。そこで、7年の歳月をかけ、マウス、ヒト細胞を用いて毛包再生能力が消失する課題を解決し、2016年に京セラが参入したことで毛包原基を構成する幹細胞の生体外増幅技術や安定的な原基製造技術の開発も成功。これらの開発の成果により、ヒトでの臨床研究の実施に向け、非臨床研究へと移行したということだ。

同試験では、理研はヒト細胞を用いた増幅・培養技術の開発と学術的な検証、オーガンテクノロジーズ社は非臨床試験に向けた製造・品質管理方法の確立および体制整備を進めている。また、京セラは、新規再生毛包器官原基製造法を提供し、支援を進めているという。毛包再生医療では、AGA患者を対象とする治療から開始することが想定されており、その後、女性型脱毛症や瘢痕性脱毛症や先天性脱毛症の患者を対象とした開発を進める予定となっている。今後の計画としては、7月より非臨床試験用の製造を開始、動物を用いた非臨床安全性試験を実施し、2018年中には同試験を終了するということだ。