京都大学(京大)は6月1日、膵臓がんが発生するメカニズムとして、遺伝子変異以外のメカニズムを解明したと発表した。
同成果は、柴田博史 iPS細胞研究所特別研究学生(現:岐阜大学 医学部付属病院医院)、山田泰広 同 教授(現:東京大学)らの研究グループによるもの。詳細は、「Nature Communications」に掲載された。
体細胞からiPS細胞へと変化する初期化の過程では、遺伝子の変化を伴わないエピジェネティックな変化によって細胞の性質が変わる。まず元の細胞で働いていた遺伝子の働きが弱くなる脱分化が起こり、さらに初期化が進むと多能性を持つ細胞(iPS細胞)へと変化する。また、がん細胞が発生する際にも、脱分化に似た状態が生じていることが知られている。
研究グループは今回、がんの原因となる代表的な遺伝子であるKrasやp53の変異によって誘導される膵臓がんを対象として、膵臓の細胞を部分的に初期化することで脱分化を起こし、がん発生に与える影響を検証した。
まず膵臓の細胞を脱分化すると、膵臓の細胞を特徴づける遺伝子の働きが一時的に抑制された。これは膵臓がんの危険因子の1つとされる膵炎で見られる現象に似ているものだという。
またKras遺伝子に変異を持つあるいはKrasとp53遺伝子に変異をもつマウスでは、がんの代表的な細胞内シグナル伝達に関わるタンパク質であるERKが十分に活性化されず、膵臓がんに至らなかった。しかし一方のKras変異マウスに一時的に初期化因子を働かせて膵臓細胞を脱分化させると、ERKが活性化され膵臓がんを形成した。
これらの結果から研究グループは、膵臓がんの発生において遺伝子変異だけではなくエピジェネティックな変化が重要であることが判明したと説明しており、今回の成果は今後、さらなるがんのメカニズム解明に貢献するものであるとしている。