日立製作所は5月31日、プログラミングが不要かつ簡単な手順で複雑な動作を習得することができる学習・成長型ロボットの実現を目指し、深層学習を用いたロボット制御技術の新しいアプローチとして、状況に応じ、学習済みの複数の動作を自律的に組み合わせてロボット全身の制御を行う深層学習技術を開発したと発表した。

同社によると、従来は人が行っている多様な環境において複雑な作業をロボットで実現するには、専門的知識が必要とされる複雑な開発工程の下で膨大な量のプログラミングを行う必要があったという。そのため、同社ではプログラミングが不要かつ、簡単な手順で動作が習得できる深層学習を用いたロボットの自律制御技術の開発に着手。

これまで、把持や移動などの個別動作を実現する深層学習技術の開発に取り組んでたものの、人が行っているような上肢(手作業)と下肢(移動)が連携した全身動作、複雑な動作手順が要求される複雑作業をロボットで実現するためには、別々に習得した動作を自由に組み合わせる技術を必要としていたという。

今回、経験として蓄積した動作を組み合わせて実行する人の処理から着想し、ロボットが置かれている状況が学習済みか否かを判断することで、学習済みの場合には動作を自律的に実行する技術と、動作手順が要求される複雑な作業でも動作を適切に組み合わせることが可能な動作組み合わせ技術を開発。

これにより、動作習得に必要な期間を数カ月から数日へと短縮すると同時に、動作バリエーションの増大を実現したという。

  • 新技術の概要

    新技術の概要

新技術のポイントとして「状況を判断し、学習済み動作を自律的に実行する技術」「動作組み合わせ技術」の2点を挙げている。

状況を判断し、学習済み動作を自律的に実行する技術では、ロボットに搭載されているカメラへの入力画像の特徴量を学習・記憶し、記憶済み画像であれば元の画像を想起(再構成)することが可能な深層学習モデルを用い、現在のロボットの入力画像と深層学習モデルの想起画像の差が小さい(学習経験がある既知の状況=経験値が高い)場合に、その画像を記憶している学習済み動作を自律的に実行する技術を開発。

動作組み合わせ技術に関しては、複雑な動作を実現するには自律的に実行される動作を適切な手順で組み合わせて実行する必要があるため、別々に学習した複数の動作の組み合わせ方法として、ある動作の完了後に別の動作を実行する「直列実行」、複数候補の動作の中から経験値の高い動作のみを実行する「排他的実行」、複数動作を並列に実行する「並列実行」の3つのケースを指定することが可能な技術を開発。これにより、複雑な手順が要求される複数動作の自由な組み合わせができるようになったという。

開発技術を検証するため、まずはドアへの接近動作、ドア開け動作、ドア通過動作を個別に学習し、これらの学習済み動作の組み合わせにより、動作手順が要求されかつ移動を伴う全身動作が必要な「ドア開け通過動作」が実現できることを、実際にロボットを動作させて確認した。

今回、開発した基盤技術は人の生活支援を行うロボットや組み立て作業を行うロボットなど、幅広い応用が可能であり、同社は今後、信頼性向上や機能向上などの開発を進め、実用化に取り組む方針だ。