東北大学は5月24日、これまで生態学においての未解決問題であった、複雑な生態系のバランスがなぜ保たれるのか? という仕組みを解明したと発表した。同成果は、生物種間の関係性のあり方が自然生態系の維持を説明するだけでなく、多様性保全の鍵となることを示唆しており、基礎・応用両面から重要なものであるという。

同成果は、東北大学生命科学研究科の川津一隆 助教、近藤倫生 教授のグループによるもの。詳細は、英国科学誌「Proceedings of the Royal Society B」にオンライン掲載された。

  • 東北大学 生態系の複雑さと安定性の関係図

    生態系の複雑さと安定性の関係図(出所:東北大Webサイト)

自然生態系では無数の生物種が互いに関わり合いながら共存している。またこのような生態系では、特定の生物種が大発生を起こしたり絶滅したりするといった個体数の大きな変化はあまり生じていない。一方で、理論研究からは生物の種類の数が多くなるほど生態系が維持されにくくなることが予測されている。

この理論と実証のギャップは、生態系には生物個体数の大変動を抑える何らかの仕組みが働いていることを示唆している。そのため、この「自然のバランス」を保つメカニズムの解明を試みる研究が行われてきた。しかし、その多くは繊細な条件を必要としたり、仕組み自体が複雑であったりする場合がほとんどで、どれも決定打に欠けていた。

研究グループは今回、生態系における生物種の「成功」の程度によって、生物が他の種から受ける影響が変化することを組み込んだ数理モデルを構築・解析。その結果、「成功するほど邪魔される」あるいは「失敗するほど助けられる」といった、「1人勝ち」を防ぐ仕組みが少しでもあれば、生態系が複雑でも、そのバランスは容易に保たれうることを発見した。

今回の成果に関して研究グループは、今後、「種間関係の密度依存」という自然のバランスを保つメカニズムを考慮することによって、生態系がなぜ撹乱地のような単純なものから熱帯多雨林やサンゴ礁における複雑なものまでさまざまな多様性を持つのか? という理由の説明に貢献するものとなる、と説明している。