Veeam Softwareはバックアップ市場では後発ながら、仮想化のバックアップで顧客を獲得してきた。だが、顧客は仮想化やプライベートクラウドからマルチクラウドに移行しつつあり、Veeamもマルチクラウド戦略を進めている。
同社が5月16日まで米シカゴで開催した年次イベント「VeeamOn 2018」で、マルチクラウド分野を統括するグローバルクラウドグループ担当バイスプレジデントのPaul Mattes氏に話を聞いた。
――この分野では2018年1月にN2WSを買収しました。Veeamの顧客にとって何を意味するのでしょうか?
Mattes氏: N2WSはAmazon Web Services(AWS)のバックアップを提供する企業で、1年以上前から提携関係にあった。N2WSの買収によりパブリッククラウドのバックアップと復元を強化できる。
企業の8割がマルチクラウドを進める計画という調査結果があり、Veeamの顧客も例外ではない。AWSはパブリッククラウドで大手であり、Veeamの顧客はこれまでと同じバックアップリカバリ製品でAWSの保護も可能になる。マルチクラウドを進めている顧客は、バックアップはVeeamだけで対応できることを目指す。
N2WSは買収前に年成長率150%を記録するなど、この分野では大手だ。買収時、すでに1000社以上の顧客を抱えていたが、Veeamブランドの下で提供することでさらに成長するだろう。
――そのほかのパブリッククラウド事業者は?
Mattes氏: MicrosoftとはAzure向けのバックアップと復元ソリューションを提供している。すでに2500以上のダウンロードがあるなど、好評だ。
IBM Cloudにも対応しており、Veeam on IBM Cloudで保護される仮想マシンの数は1000%で成長している。Veeamの保護技術を認めてもらっており、IBM Global Technology ServiceはVeeamをマネージドサービスとして提供する。
クラウド事業で多くを占めるのは、クラウド・マネージド・サービス・プロバイダー(Veeam Cloud & Service Provider:VCSP)で、プログラムに参加するサービス事業者数は1万9000社を数える。VCSPが保護する仮想マシンの数は36%で増加しており、地域のクラウドサービス事業者もVeeamを採用しており、地域から世界に拡大する動きも見られる。
このようにクラウド分野は成長市場であり、われわれはサービス事業者と共に成長したいと思っている。
――日本市場はどうでしょうか?
Mattes氏: NTT、富士通などとの取り組みを開始したところだ。早期段階でまだ話せることはない。
――企業はマルチクラウドを進めるにあたり、どのような課題を抱えているのでしょうか?
Mattes氏: 最大の課題は、何がどこにあるのかを把握すること。パブリッククラウドで何を動かし、プライベートクラウドで何を動かすのか、どのワークロードをどこに置くのが最適なのか、を見出すのも課題だ。
われわれはオンプレミス、パブリッククラウドなど、データがどこにあるのかに関係なく保護できる。しかも、ちゃんと動く。この“ちゃんと動く”は顧客のVeeamに対する高い評価、高い満足度につながっている重要な差別化要因だ。使いやすく、ちゃんと動くことは基本的だが重要だ。
また、クラウド版、エンタープライズ版などと分けていない。すべて同じソフトウェアで、共通のプラットフォームを使うので、顧客はすぐに自分たちのデータを保護できる。
――Veeam全体はSMBから大企業に拡大していますが、マルチクラウドはこの戦略にどのように貢献するのでしょうか?
Mattes氏: SMBを維持しながら、大企業にフォーカスを拡大している。大企業ではマルチクラウドを進めるにあたり、システムの見直しが進むだろう。今後3年で70%の企業がデータの保護や復元技術の見直しを行うと言われている。既存のデータ保護技術でいいのか、投資対効果はどうなのかなどの精査が進むことは、Veeamにとってチャンスになる。
――サーバーレス、コンテナなどのトレンドへの対応は?
Mattes氏: サーバーレス、コンテナなどの新しい技術についても動向を注視しており、社内の開発ロードマップでも戦略的に見ている分野だ。ソリューションがどのようなものになるのかは現時点で話せないが、時期が来たら話すことができる。
――SaaSでは「Office 365」のサポートを強調しています。そのほかのSaaSはどうでしょうか?
Mattes氏: Workday、Salesforce.comなど、顧客が使っているSaaSは多くあり、どこに大きなチャンスがあるのかを見ているところだ。
SaaSでの問題は、クラウドなので安心と思っている顧客が多いことだ。しかし、実際にデータの損失などの問題が起こった際には、顧客に責任があることが多いほか、Office 365の顧客と話しても、クラウドにあれば大丈夫と思っていたというところが多い。
SalesforceやMicrosoftのクラウドがダウンすると言っているのではなく、偶然削除してしまうような場合に備えなければならない。顧客がこれをリスクとわかっていないのが課題だ。SaaSでは顧客がバックアップに責任があるということを啓蒙する必要がある。
チャネルでも、Office 365を再販するパートナーに聞いたところ、バックアップサービスを提供していないところが多い。Veeamを提供することでバリューを提供できる。この点も伝えていく。将来は、SaaSとバックアップセットで、というパターンが一般的になるのではないか。