富士通は5月15日、量子現象に着想を得た、膨大な組み合わせの中から最適な解を導き出すアニーリングのための次世代のアーキテクチャー「デジタルアニーラ」を活用した、「FUJITSU Quantum-inspired Computing Digital Annealer」(以下、デジタルアニーラ クラウドサービス)を同日より提供すると発表した。費用は個別見積もり。

「デジタルアニーラ」は、コンピュータ内部で素子同士が自由に信号をやりとりできる全結合型の設計を採用。1024個のビット値が全結合で相互接続され、さらにビット間の結合の強さを65536階調で細かく表現できるという。

  • デジタルアニーラ クラウドサービスで提供される「デジタルアニーラ」の特徴

利用領域としては、創薬における分子類似性検索の高速化や金融におけるポートフォリオの最適化、デジタルマーケティングのパーソナライズ広告、工場・物流における倉庫部品の最適化配置などに加えて、交通渋滞や災害時の復旧計画などの社会課題まで、幅広い領域での活用が期待できるという。

  • 適用領域

高度医療では、がんの放射線医療において、照射の範囲、方向、強度の無数の組み合わせの最適化で利用できるといい、これまで数時間から数日かかっていたものが、数分に短縮できるという。

  • がんの放射線医療での適用

今回は、専用チップを利用したクラウドサービスとして提供され、顧客が解きたい問題に対するパラメータを入力すると、それに対する解を出力する。

  • デジタルアニーラ クラウドサービス

なお、同社はDAU(Digital Annealing Unit)を開発中で、今年の年末までに提供する予定。オンプレミス向けとして、DAUを組み込んだサーバとして提供される。同社はDAUを第2世代の「デジタルアニーラ」と位置付けており、規模は最大8192ビット、精度は最大64ビット階調を予定している。

そして、2019年度中には、DAUの並立処理を実現する予定で、その際には、100万ビット規模まで拡大されるという。

  • デジタルアニーラのロードマップ

また同社は、デジタルアニーラ クラウドサービスの導入にあたり、顧客の課題定義や数式モデル構築、数式モデルを利活用するためのアプリケーション開発を支援する「FUJITSU Digital Annealerテクニカルサービス」(以下、デジタルアニーラ テクニカルサービス)をシステムエンジニアや専門技術者1500名体制で提供開始する。費用はこちらも、個別見積もり。

  • デジタルアニーラ テクニカルサービス

同社では、デジタルアニーラ クラウドサービスとデジタルアニーラ テクニカルサービスで、今後5年間で累計1000億円の売り上げを見込んでいる。

富士通 執行役員常務 デジタルサービス部門副部門長 吉澤尚子氏は「量子コンピュータには、アニーリングとゲート方式があるが、今回の技術はアニーリング。富士通の技術の特徴はアルゴリズムと考え方にあり、他のチップメーカーが簡単にまねできるものではない」と、自社の優位性をアピールした。

  • DAUを手にする富士通 執行役員常務 デジタルサービス部門副部門長 吉澤尚子氏

同社では、「デジタルアニーラ クラウドサービス」の適用領域を拡大するため、量子コンピュータ向けソフトウェアの1QB Information Technologiesとグローバルにビジネス協業を実施し、2018年度より1QBitのクラウドサービスからも「デジタルアニーラ」が利用可能になる。

  • 1QBit社との協業

また、University of Toronto(トロント大学)とのパートナーシップを強化しており、現在、交通・ネットワーク・金融・医療の4つの分野で5件の「デジタルアニーラ」の応用に関する共同研究を進めているという。