統計数理研究所は、複数の臨床試験によるエビデンスを統合し、治療効果の大きさを評価するメタアナリシスにおいて、集団内での治療効果の異質性を適切に評価し、正確に予測する統計手法を開発したと発表した。

同成果は、統計数理研究所 医療健康データ科学研究センターの長島健悟 特任准教授、統計数理研究所 データ科学研究系の野間久史 准教授、京都大学 大学院医学研究科の古川壽亮 教授らの共同研究グループによるもの。詳細は、「Statistical Methods in Medical Research」に掲載された。

  • 変量効果モデルを用いたメタアナリシスと予測区間

    変量効果モデルを用いたメタアナリシスと予測区間 (出所:統計数理研究所Webサイト)

医療分野におけるメタアナリシスとは、過去に行われた臨床試験の結果を統合し、関心のある薬剤・治療法の治療効果や副作用の大きさを評価するための研究手法だ。メタアナリシスでは、試験間の平均治療効果と、治療効果の違いの大きさを評価することが、重要であり一般的である。

またそれらとともに、将来試験を実施した際に観察される治療効果の値など、将来観察される推測対象の値を含む可能性が高い区間である「予測区間」を示すことが推奨されている。

一般的に、予測区間などを計算する過程では、実データのばらつきを加味するために、推定誤差と呼ばれる推測対象の値のばらつきを求める。近年、一般的に用いられている欧州の研究グループが開発した方法は、平均治療効果の推定誤差および異質性の推定誤差に対して近似計算を用いていた。

しかし従来の予測区間は、統合する試験の数が少ない際、区間の幅を過小評価してしまうことが知られていた。また、その区間の幅を過小評価すれば、治療効果の過小評価と過大評価の両方が起こりうるため、正確な予測区間の評価方法の開発が必要とされていた。

研究グループは今回、これまでの過小評価の原因の大部分が、各試験間の異質性の影響を過小評価している点であることを明らかにし、予測区間を正確に計算する方法を開発した。またこの方法では、特に異質性の推定誤差に対する近似計算が区間幅の過小評価に強い影響を及ぼしていることを明らかにした。

さらに、平均治療効果の推定誤差の近似計算を、欧州の研究グループが開発したものより精度が高いものに置き換え、異質性の推定誤差を近似ではなく正確に計算する方法を開発した。同手法を線維筋痛症治療に関する実際の医学研究に適用したところ、標準的な方法と新手法でまったく違う結果となったことに加え、従来の方法では予測間を過小評価し、より狭い範囲として公表していた可能性があったことが判明した。

  • 実際の医学研究への適用結果:線維筋痛症におけるプラセボ治療に対する抗うつ薬の痛みの低減効果を評価したメタアナリシス

    実際の医学研究への適用結果:線維筋痛症におけるプラセボ治療に対する抗うつ薬の痛みの低減効果を評価したメタアナリシス (出所:統計数理研究所Webサイト)

今回の成果を受けて研究グループは、同手法を用いることで今後、医療政策や診療ガイドラインの策定、実臨床の現場により正確な科学的エビデンスを提供できると期待されると説明している。