地球の空には風が吹き、海には海流が流れている。そのエネルギー源は太陽からの光だ。この光が熱に変わり、複雑なしくみで風や海流を生む。地球は太陽から熱を受け、温まった自分自身が、今度は逆に宇宙へ熱を放出する。その熱の出入りのバランスで、地球の気温は決まっている。地球の気候は、太陽と関係がある。周期的に訪れる氷期、間氷期も、太陽と地球の位置関係の変化に関係があるらしい。

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    図 1989~2014年の雷発生数がどれくらい「27日周期」になっているかを示している。青→赤となるほど、「27日周期」である確実性が高い。九州から本州中西部にかけて、確実性が高くなっている。(宮原さんら研究グループ提供)

長い期間の気象の平均像である「気候」には、こうして太陽が影響を与えているとしても、では、降雨や雲の量といった日々の気象に対して、太陽の活動はどう関係しているのか。じつは、この点については、まだあまり研究が進んでいない。

たとえば、太陽の自転が地球の気象に与える影響。太陽は約27日で、こまのように1回転している。これが太陽の自転だ。太陽の表面は均質ではないから、地球に届く紫外線などもこの周期で増減する。武蔵野美術大学の宮原ひろ子(みやはら ひろこ)准教授(宇宙気候学)らの研究グループが、江戸時代の記録から、日本の雷もこの「27日周期」の影響を受けていることを論文にまとめて発表した。

宮原さんらが使ったのは、青森県弘前市に残る「弘前藩庁日記」と東京都八王子市の「石川日記」。弘前藩庁日記には、現在の東京都心にあたる江戸の天気も記録されている。これらの記録から、5~9月に発生した雷を調べた。

その結果、太陽活動が活発な時期に、八王子と江戸で、雷の発生数が約27日の周期で増減を繰り返していることがわかった。太陽活動が不活発な時期には、この増減は現れなかった。約27日の周期をもつ他の自然現象としては、月の満ち欠け、つまり月が地球を回る公転周期も考えられるが、宮原さんによると、太陽活動の活発な時期、不活発な時期で雷に「27日周期」が現れたり現れなかったりしたことが、太陽の自転周期と雷発生数との結びつきを示しているという。弘前での記録には、このような傾向はあまりみられなかった。

宮原さんによると、1989~2014年の夏季のデータでも、九州から本州の中西部にかけて、雷の発生数に「27日周期」がよくみられている。これだけでなく、江戸時代の150年にわたる長期データを分析に使ったことで、太陽と雷の関係を示すことができた。太陽の自転が雷の発生数に影響を与える理由については、今後の検討課題だという。

太陽の変動を扱う研究分野は、太陽物理学や宇宙線物理学など。一方、地球の雷や雲は気象学の分野だ。宮原さんらの今回の研究は、その学際領域といえる。最近は国も学際研究を奨励しているが、現実は、なかなか厳しい。米国で研究を続けている著名な日本人気象学者が、「私が海の話をすると、米国では当たり前に聞いてくれるが、日本では『なんで気象学者が専門外の海に口を出すんだ』という妙な反応に出合うことがある」とかつて話していた。また、学際的な新しい分野だと、論文を掲載できる専門誌が限られてしまう場合もある。いまもおそらく、学際研究を阻む壁はいくつもある。その意味からも、この分野の今後に期待したい。

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