スイス連邦材料試験研究所(Empa)とチューリッヒ工科大学の研究チームは、低コストな次世代二次電池として期待されるアルミニウムイオン電池向けの新規電池材料を開発したと発表した。正極側集電体としての窒化チタン、正極材料としてのポリピレンの2つの材料が報告されている。研究論文は「Advanced Materials」および「Advanced Science」に掲載された。

  • コイン型のアルミニウムイオン電池

    試作されたコイン型のアルミニウムイオン電池 (出所:Empa)

アルミニウムイオン電池は、正極-負極間でのアルミニウムイオンの移動を利用して充放電を行う二次電池である。地球上でのアルミニウムの存在量は鉄を上回り、金属元素の中では最も多いとされる。このため、アルミニウムを用いた二次電池が実用化できれば、現行のリチウムイオン電池よりも低コストなエネルギー貯蔵が可能になると考えられる。

アルミニウムイオン電池の課題のひとつとして、電解液の反応性が極めて高いという問題がある。アルミニウムイオン電池用の電解液は、ステンレス鋼、金、プラチナといった材料も腐食させてしまうため、集電体用として耐腐食性に優れた材料の探索が行われている。

今回の研究では、アルミニウムイオン電池の集電体材料として窒化チタンが適しているとの報告がなされている。窒化チタンは耐腐食性と導電性に優れ、安価かつ容易に生産できるため、低コストなアルミニウムイオン電池の集電体材料として期待できるとする。

論文によると、集電体に窒化チタンを用いて試作したコイン型アルミニウムイオン電池はクーロン効率が99.5% と高く、パワー密度は4500W/kg、少なくとも500サイクルの繰り返し充放電性能が確認されている。

  • アルミニウムイオン電池の動作原理

    アルミニウムイオン電池の動作原理(出所:Advanced Materials 2018, 画像編集:Empa)

もうひとつの材料は炭化水素の鎖状構造をもつポリピレンで、こちらは正極材として利用される。これまでアルミニウムイオン電池の正極にはグラファイトが使われることが多かったが、ポリピレンは貯蔵可能なエネルギー量の観点からグラファイトに匹敵することが確認できたという。

グラファイトと比べた場合、ポリピレン正極の優位性としては多孔性などの性質を化学処理などで人為的に変えられるという点がある。このため比較的サイズの大きなイオンを利用したエネルギー貯蔵に向いている材料であるといえる。

論文によると、化学処理で誘導体化した場合のポリピレンの蓄電容量は放電電圧約1.7Vにおいて100mAh/gであり、誘導体化処理されていないポリピレン(70mAh/g)や結晶化ピレン(20mAh/g)と比べて容量が向上したという。このときエネルギー効率は約86% で、少なくとも1000回のサイクル安定性が確認されたとしている。

このような二次電池は、定置型のエネルギー貯蔵設備など、エネルギー密度の高さよりも低コスト性が重視される分野への応用が期待できる。また、窒化チタン集電体とポリピレン正極はどちらも薄膜化が可能なため、フレキシブルフィルムで封止した薄型電池などにも適用できるという。

  • ポリピレンの分子構造

    ポリピレンの分子構造 (出所:Advanced Materials 2018, 画像編集:Empa)