Thundersoft(サンダーソフト)は5月9日、日本地域に今後3年間で200億円規模の投資を行っていくことを明らかにした。同日、都内で会見を開いた際に、同社の会長兼CEOである趙洪飛氏が語ったもので、日本のものづくりの力が、今後10年の成長に貢献するとの判断からだという。

同社は2008年に中国・北京にて創業され、主にモバイルフォン/スマートフォンを中心とした製品開発、中でもソフトウェア開発を中心に行ってきた。近年は、パートナーである多くの半導体チップベンダと同じく、IoTやディープラーニングを中心とするAI(人工知能)分野への事業展開を加速しており、特にエッジデバイスでのAI(同社では「On Device AI」と呼称)活用に向け、Qualcomm(Snapdragon)、Arm、HiSiliconそれぞれのプロセッサに対応するAPIなどを用いることで、限られたプロセッサならびにメモリリソースの中での高速処理の実現などを可能とするなど、特色を出しつつある。また、この1年ほどで、音声認識が新たなUIとして期待されるようになってきたこともあり、アルゴリズムの開発を進めているという。

  • インテリジェントなエッジコンピューティングの構築イメージ

    半導体(ハードウェア)と各種ソフトウェアの両方に強みを持つことで、エッジコンピューティングで必要とされるインテリジェントプラットフォームの構築が可能となる

  • サンダーソフトのOn Device AI

    On Device AIアルゴリズムは現在、Qualcomm、Arm、HiSiliconの3社のプラットフォームに対応している

  • サンダーソフトの音声認識アルゴリズム

    近年、注目が高まっている音声認識・音声処理のアルゴリズムの開発も進められている

なぜ日本に200億円の投資を行うのか?

同社が日本に200億円もの投資を決めた背景について、趙会長は、「単に画像認識のAIと言っても、店舗で売っているものが異なれば、異なる要求がでてくる。これは工場でも同じことだ。工場では工場ごとにノウハウが存在し、そうしたことを理解する必要がある。日本の精密機器産業は、そうした意味では、実力、ノウハウともに高く、世界に市場を開拓していくことができる産業だと思っている。また、かつて日本に多くいた半導体エンジニアや組み込みエンジニアの存在も、これからのIoTという市場を考えれば資産になると思っており、そうした人たちの活かすことで相乗効果も期待できる」と、日本には産業的にも、人材的にも多くの魅力が存在することを強調する。

とはいえ、3年間で200億円の投資といっても、具体的な投資方法はまだ固まりきっていない模様だ。同氏は「投資の一環としてAIに関する研究開発も日本で行っていく予定」とするが、自社で人材を確保しようとすれば、市場が求めるタイミングで製品化までたどり着けるかどうかは不透明となるほか、産業ごとに要求されるニーズに対する知見なども不足していることから、上流から下流まで囲い込んだエコシステムを構築するのか、そうしたノウハウや人材を有する企業を買収するのか、それともそうした企業とのパートナーシップを締結するのかについては、今後、検討していくことになると述べるにとどめた。

ただ、サンダーソフトジャパンの代表取締役社長 兼 北京本社VPである今井正徳氏によると、「サンダーソフトの売り上げに占める日本地域の割合は3割弱ほどあり、グローバルと同じ程度の割合で成長を続けている。この比率は今後もしばらくは変わらないとみている。それだけ市場として重要な地域であり、日本法人としての人員拡充は継続して行っていく。独自の研究開発組織も立ち上げ、エッジコンピューティングや組み込みAIの技術開発を日本で行う体制を目指す」と、同社にとっても日本が重要な地域であるとするほか、「旧来の組み込みと、IoTやAIを活用する組み込みは若干意味合いが異なり、利用するプロセッサがマイコンクラスから、MPUやGPU、NPUなど、より演算性能が高いものになってくる。その一方で、フォームファクタは小型かつ低消費電力なもので、システムとして扱えるリソースはこれまで以上に厳しいものが求められる。そうしたリソースの限界を見極め、最適なソリューションを提供できる、という部分は、組み込み産業にとっての新たな価値が創出できる部分だと思っており、そうしたことを実現できるところに投資を行っていきたい」とも述べており、同社がこれからのビジネスに価値を生み出すと判断する分野を特に注視していくとする。

なお同社は、2018年夏に、On Device AIを活用可能なスマートIoTを、高品質かつ短期間で製品化することを可能とするインテリジェントデバイス開発プラットフォーム「TurboX SoM(System on Module)」を国内向けに正式発売する予定としており、これを活用することで、ソフトウェアのみならすハードウェアも含めたプラットフォームソリューションとして国内のIoTやカーエレクトロニクス分野に対するアプローチを強化していきたいとしている。

  • TurboXの概要
  • SoMの概要
  • TurboXは、SoM、OS、アルゴリズム、アプリ、クラウドとIoTが必要とするすべてを一気に提供するプラットフォーム。SoMはIoT機器を開発するためのハードウェアとなる

  • 4種類のTurboX SoM
  • TurboX SoMの実物
  • TurboX SoMの実物。左からロボット向け、スマートカメラ向け、ドローン向け、VR向けとなっている