東北大学は5月7日、塩素による消毒処理がノロウイルスに対する淘汰圧(選択圧)として作用することを証明したと発表した。

同成果は、東北大学(東北大) 大学院環境科学研究科の佐野大輔 准教授と、同大学院 工学研究科、北海道大学、愛媛大学、長崎大学、北里大学らとの共同研究によるもの。詳細は、「Applied and Environmental Microbiology」に掲載された。

  • 遊離塩素による繰り返し曝露実験の概要図

    遊離塩素による繰り返し曝露実験の概要図 (出所:東北大学Webサイト)

日本を含む先進国社会においては、上下水道整備による衛生環境の向上や、医学的知見の蓄積により、コレラや赤痢といった水系感染症はほぼ克服された状況にある。しかし、ノロウイルスによる感染症は、衛生状態の良い先進国社会においてもほとんど制御不可能であるのが現状だ。

これは、ノロウイルスが社会インフラ整備のみで制御されないことに起因すると考えられているが、その具体像は明らかになっていなかった。そのため、公衆衛生環境が整っている先進諸国において、ノロウイルスが蔓延する理由を明らかにし、より効果的な対抗策を講じることが求められていた。

研究グループは今回、試験ウイルスに対して、培養-遊離塩素処理-培養を繰り返すテスト系と、遊離塩素処理を行わずに培養-希釈-培養を繰り返すコントロール系を設定し、それぞれ10回のサイクルを繰り返し、結果を分析した。

その結果、塩素消毒処理を施さないコントロール系においては、10回のサイクルを通じ遊離塩素処理により感染価が1/10,000に低下し、試験ウイルスとして用いたmurine norovirus(MNV)の遊離塩素への感受性に有意な変化は生じなかった。それに対しテスト系においては、サイクルが進むごとに遊離塩素感受性が低下し、10回目のサイクル後には感染価低下が1/1,000程度に留まった。

また、ノロウイルスの外殻タンパク質遺伝子に関し次世代シーケンス解析を行い、各領域における一塩基多型を解析したところ、遊離塩素で処理したテスト系の配列にのみ、外殻タンパク質における変異が見出された。さらに、解析を行った結果、遊離塩素の繰り返し曝露を受けたテスト系のみ、進化方向が近接していることが観察された。

これらの結果から、塩素消毒がノロウイルスの進化に影響を与えることが実験的に証明されたとしている。

  • 次世代シーケンス解析結果を用いた主座標分析結果

    次世代シーケンス解析結果を用いた主座標分析結果。遊離塩素の繰り返し曝露を受けたテスト系(1st TPおよび2nd TP)のみ、進化方向が近接していることが観察された。 (出所:東北大学Webサイト)

なお、今回の成果を受けて研究グループは、今後、途上国における汚水処理・消毒施設の普及に積極的に取り組むことで、新型ノロウイルスの出現を防ぎ、日本国内への輸入感染発生の可能性を減じることができると説明している。