北海道大学(北大)は、柔軟な構造を持つ炭素の鎖に多数のカルボニル基を導入した「カルボニルひも」化合物の合成に成功し、さまざまな形のナノ構造体を作り出す手段を開発したと発表した。
同成果は、北海道大学大学院工学研究院の吉岡翔太助教、猪熊泰英准教授らの研究グループによるもの。英国の学術誌「Communications Chemistry」に掲載された。
自在に形を作ることができる材料はものづくりにおける基本素材となり、大きさがナノメートル単位で表される目に見えない分子の世界でも、このような素材は非常に重要とされている。
近年、さまざまな合成反応が開発され、ベンゼンのように単純な分子であれば精密な作成が可能になってきた。しかし、長さが1nm程のベンゼンの何十倍、何百倍にも相当する数十~数百nmの巨大分子構造体を作り上げることは、依然として困難な課題として知られている。
このような巨大分子構造体は、タンパク質のように分子の変換や発色などさまざま機能を持たせられるため、その精密な作成方法が研究されている。しかし、有機化学で扱う分子の大きさは典型的な化合物であるベンゼンで約1nmしかなく、10nm以上の巨大分子を作り上げることは容易ではなかった。
今回、研究グループは「巻き上げ技法」に着目。巻き上げ技法とは、壺や水瓶などの3次元的な形を1次元的なひも状の粘土を巻き上げながら作る方法だ。分子の世界にも、柔軟な構造を持ったひも状のものは数多く知られていたが、粘土のように自在に扱うことは難しく、課題となっていた。
今回の研究では、柔軟なひも状分子に「互いにペタペタくっつく」粘土のような性質を与えるため、カルボニル基という官能基を導入。この「カルボニルひも」は、水素結合などの分子間相互作用がひものさまざまな箇所で働き、固体状態で直線状、S字、コの字型などの形を作り出すことができる。
また、カルボニル基をイミンと呼ばれる官能基に変換することで、金属イオンを留め金としてグリッド構造と円筒型構造の巨大分子集合体を構築することに成功した。これらには、従来の手法では産み出しにくかった柔軟なひも由来の曲線部が多く存在する構造体となったという。
なお、今回の成果を受けて研究グループは、今後これまで以上に精密で柔軟なナノ構造体や分子集合体の合成に応用することで、分子の変換触媒や分離・吸蔵など機能性材料への応用展開が期待されるとしている。