情報通信研究機構(以下、NICT)は、アストン大学と共同で、日常生活の中で刻々と変化する人の幸福度が、障害物の中のターゲットを探す速さに現れることをスマホアプリを使って実験的に明らかにしたと発表した。
同研究は、NICT脳情報通信融合研究センター(CiNet)の山岸典子主任研究員、前川亮氏、Matthew de Brecht氏、アストン大学のStephen J. Anderson氏らの研究チームによるもので、同研究成果は、4月18日に「PLOS ONE」のOPEN ACCESSに掲載された。
人は幸福度が高い時の方が、創造性が高く、また多くのことや人と関わることができるなど社会性が高まることが、社会心理学の研究で広く支持されている。しかし、人が物を見たり、見つけたりするような「基本的な機能に、その時の気分が影響しているかどうか」は分かっていなかった。従来の研究では、音楽や映像、報酬などによって人の幸福度を変化させ、そうした機能への影響を実験室で計測していたが、同研究では、自然な気分の変化を利用する新しい手法を開発し、幸福度が人の視覚探索過程に与える影響を確かめる実験が行われた。
同研究で行われた実験の特徴は、日常生活の中で自然に変化する幸福度をスマホアプリにより記録すると同時に、心理学で広く用いられている課題をそのアプリによって遂行できるようにした点にある。実験参加者33名が、それぞれの日常生活の中で毎日、朝・昼・晩の3回、2週間にわたり、1回当たり5分程度、ターゲットを見つけるなどのアプリの課題に取り組んだ。その結果、幸福度が高くなると、障害物の中のターゲットを速く見つけることができることが分かった。
幸福度の高低と、視覚探索機能のパフォーマンスが関係しているという同研究結果は、逆に、視覚探索機能のパフォーマンスをモニターすれば、幸福度を推定できることを示唆しており、スマホアプリなどを活用することで、うつ病などの心の病気の兆候を未病の段階で「見える化」する手法の開発に役立てられることが期待されるという。さらに、視覚探索が速くできるようにスマホアプリなどでトレーニングすることで、幸福度を上げるような研究にも着手し、心の未病の「改善」を可能とする手法の研究開発を目指すということだ。